センサは,家電や自動車,医療装置,製造装置などあらゆる機器に広く使われヒット商品を生み出している。ニーズの広がりとともに,センサの開発環境も大きく変わっている。センサ・ネットワーク開発環境が2年ほど前から店舗の温度管理や FA(factory automation)機器の制御などのシステム構築に利用されるようになり,2009年10月に米Microsoft社が発売するWindows7は,センサやGPS機能搭載システムの開発環境「Sensor & Location Platform」を用意した。

二上 貴夫氏

 こうした動きを技術者や企業はどうとらえればよいのだろうか。「センサを使いこなして面白いシステムを作りやすくなる。センサを作っている技術者なら,自分が作ったセンサを特定の機器だけでなく広く普及させるチャンスが増える」と,これまでセンサを利用したシステムや組み込みソフトの開発などに携わってきた東陽テクニカ ソフトウェア・システム研究部 技術主幹/部長(東海大学専門職大学院 組込み技術研究科 教授も務める)の二上 貴夫氏は語る。二上氏に,センサの現状と今後の開発の方向性を聞いた。

問 センサ応用の現状を伺います。

二上氏 昨今,センサとネットワーク/インタフェースを組み合わせる開発テーマが多くなっています。例えば,ゲーム機のWiiや携帯電話機のiPhone,デジタル・カメラの笑顔検出,医療用ライフログ,ハイブリッド車のエンジン/モータ制御,入退室管理,スマート・グリッドなど,すべてセンサを利用した新しい機器やシステムです。つまりセンサ応用は,さまざまな電子機器の相互連携やユーザー・インタフェース,ネットワークを利用した社会インフラなどへと広がっています。これらのうちいくつかは,ネットワークを前提としたアプリケーションですし,そうでないものでも今後ネットワークにつなげることで利用範囲が広がるものが多くあります。

 これまで多くのセンサが,計測・制御用として開発され製造され,リアルタイムな事象の検出を行っていました。しかし,ネットワークを簡単に構築し利用できる状況になり,センサは極めてスケールの大きい認知・連係システムに育ちつつあります。リアルタイムと準リアルタイムのセンシングの混在によって,新しい応用の可能性を追求できる時代になったとも言えます。

 これは,どんなセンサ(センシング)にも言えることです。既存センサも新規開発センサも,その用途は開発者の当初の想定よりも広いものにすることができるようになりました。逆に見れば,今までのリアルタイム,局所利用的な視野で考えていると,性能の良いものであっても新しい応用の可能性は限られてしまうことになりかねません。

問 技術者はどう取り組めばよいでしょうか。

二上氏 自動車用センサ・システムで考えてみましょう。酒酔い状態を検出して運転させないシステムは実用レベルにありますが,覚醒状態かどうかを検出して居眠り運転をさせないシステムはまだ開発中です。こうしたセンサ・システムの開発では,脳の状態を何らかのセンサで電子的にとらえ,状態をコンピュータとソフトウエアで認識・判断することが必要です。こうなるとセンサで磁気などを計測するだけでは済みません。脳の活動を知り,それにあったデータを採取する部品やデータを処理するシステムを開発する必要があります。

 センサを使った電子計測には,過去30年間,さまざまな方法が加わってきました。最初はアナログ回路で,次第にマイコンを利用しながら計測を行ってきました。今後は,LANやインターネットを使ってセンサ情報の利活用の幅を広げられるでしょう。

 例えば可搬型の気象計測システムなどはその典型ですね。きれいな芝生の上に百葉箱を置いて正確に気象情報の計測を行うシステムも大切ですが,自動車などに雨滴や湿度のセンサ,イメージ・センサなどを搭載し,たくさんの地点のデータを集めて計測を行うといったセンサ・ネットワーク・システムも出てきています。こういった新しい発想によって,新しい応用を作っていくチャンスが増えてくるでしょう。