日経ものづくり 直言

安易な海外進出に異議
付加価値の最大化を考えよ

 「中国は世界の工場だ。すぐに生産拠点を中国に移さねば」という議論をよく聞く。局所的な作業工賃が日本の1/20だというだけで工場を造る。本当に自分の頭できちんと考えて,このような結論が出るものだろうか。
 技術革新がものすごい速さで進む現在,完成品も部品も在庫滞留すると,すぐに陳腐化して魅力が薄れてしまう。価格もすぐに低下する。例えば液晶テレビはこの半年で20%も市場価格が下がった。製品の付加価値が急激に変化するという現実を直視しなければならない。
 付加価値を減らさないためには,部品を買い取ったその日のうちに組み立てて市場で売るという経営スピードこそが大事な視点になる。中国で造っていたら,部品と完成品が往復する間にも店頭での販売価格が下がってしまう。短時間に手元で造れるような付加価値の低いものは,往復の物流費を払ってまで造ることはない。
 そもそも付加価値とは何か。ソニー中村研究所は「トータル・バリュー・ストリーム・イノベーション」という考え方を提唱している。バリュー・ストリームとは,商品の企画から設計・開発・部品化・量産,そして販売という一連の流れを回してビジネスを行っていくことを指す。最終段階で商品を売って得た金と,バリュー・ストリームで外からの仕入れに使ったすべての金の差額が付加価値である。

日経ものづくり 直言
ソニー中村研究所
代表取締役社長
中村 末広

1959年ソニー入社,1986年英国工場長。ディスプレイ,セミコンダクタ,コアテクノロジー&ネットワークの各カンパニーで要職を歴任,執行役員副社長を経て現職。