日経ものづくり 直言

トヨタ式マネジメントは
ITの基盤整備にも有効

 先日,トヨタ自動車のCIO(最高情報責任者)である天野吉和常務に話を聞く機会があった。印象的だったのが「製造現場が分単位で仕事をしているのに比べて,IT化は遅すぎるのではないか」との説だ。ITの分野をトヨタ式マネジメントの視点で見るとこうなるのだろう。
 トヨタ生産方式では自働化,かんばん,目で見る管理,外段取り化,アンドン,3カ月前の納入内示など,JIT(ジャスト・イン・タイム)を実現するためのさまざまな仕掛けが生産システムに組み込まれる。例えば外段取り化では次の工程の準備をするのに機械を止めることなく,工程の外で段取りを行う。可能な限り事前に仕掛けておくことで,実作業時間をムダにせずに済む。
 それに対してITシステムの導入や構築は,言ってみれば受注してから作業を始める体制。ITプロジェクトが長期化する最大の原因は,もしかしたらここにあるのかもしれない。プロジェクト開始の前から仕掛けておけば,実作業時間はもっと短くなるはずである。
 同社が3次元CADツールの「CATIA」を導入しているのも,このような意味があるという。CATIAは導入企業が増えたため,海外企業との間や拠点間,部門間での設計情報のやりとりのため,共通言語として使える。共通言語を使いこなせるようにしておくことは,何か新規の開発案件があったときにすぐに取り掛かれることを意味する。

日経ものづくり 直言
武蔵大学経済学部教授
松島 桂樹

1948年生まれ。日本IBM,岐阜経済大学(教授)などを経て2001年から現職。著書に『情報ネットワークを活用したモノづくり経営』(中央経済社)など。