雑誌 特集

省力化新時代

田野倉 力
2005/07/31 13:16
 
日経ものづくり 特集

働き手がどんどん減っていく。GDPが減るとか,年金が破綻するとか,危機感をあおる話ばかりが伝わってくる。前向きに考えてはどうか。製造業にとってチャンスである。働き手が減るのなら,それを補うための技術が要求される。いや,要求される前に先回りして提案すれば,新しい市場をつくれるのである。(浜田基彦,高野 敦)

【PART1】今,なぜ省力化か?
【PART2】任せなさい
(1)トラックを運転する・・トラック2台を連結
(2)見回る ・・撮影し続けるロボット
(3)記録に残す・・声をテキストデータに変換
(4)タマネギの下ごしらえ・・皮だけでなく端も根も取る
(5)入浴・就寝介護・・寝返りを完全に再現
(6)肉を焼く・・“鉄板”の余熱を使う
(7)米を作る・・シートを敷くだけで田植え
(8)野菜を作る・・地面に穴を開け,肥料を仕込む
(9)ご飯を盛る・・スクリュで押し,ローラでほぐす


【PART1】今,なぜ省力化か?
人口減少でチャンス到来
製造業の得意技を生かせ

 「省力化」の持つ重みが,あと数年で変わる。いや,もう変わってしまったかもしれない。日本はこれから働き手が少なくなるからだ。人口が増える一方だったころの省力化と,減っていく中での省力化では切実さが違う。「1人減らせばいくらコストダウン」とソロバンをはじいていた時代は去る。いくら金を積んでも,人がいなくて雇えない時代が来る。

もう,始まっているかもしれない
 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所によると,日本の人口は2005~2009年を頂点として,増加から減少へと転じる(図)。ピークを越えたら,あとは減るだけ。これが,働き手が少なくなる基本的な理由だ。
 さらに,高齢化が働き手の減少に拍車を掛ける。これまで60%台後半で推移していた生産年齢人口の比率が,1990年ころから一貫して下げ続けている。対照的に,10%強だった老齢人口の比率が上がり,2006年には20%を超える。
 もう一つの指標として労働力人口(15歳以上で,働いているか職を探している人)がある。経済・労働分野の学識者で構成する厚生労働省の雇用政策研究会は,労働力人口の推計をまとめた。労働力人口は,2004年の段階で6642万人。それが,2015年には6234万人(2004年比で308万人減),2030年には5554万人(同1050万人減)に落ち込む。こうした事態を憂慮し,同研究会では「出産・育児による離職者への再就職支援」「60歳代後半の人たちへの雇用・就業支援」といった10カ条から成る政策を提言。しかし,これらの政策が機能しても,労働力人口は2015年に6532万人(2004年比で110万人減),2030年には6112万人(同530万人減)まで減るという。
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図●人口推計
各年10月1日時点での数値。2005年以降は予測値。日本は,いよいよ人口減少社会を迎える。
出所:総務省統計局「人口推計」(1920~2004年),厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」(2005~2100年)


【PART2】任せなさい
(1)トラックを運転する

2台を1人がまとめて運転
1両目が2両目を操舵

 関越自動車道,富山から東京に向けて2台のトラックがつながって走る。2台目の運転台には誰もいない。練馬インターチェンジを出て都内の一般道に降りる。中継所に着くと,待ち合わせていた別の運転手が現れる。2人のドライバーは協力して,2台をつないでいた配線,配管を外し,連結器も外して2台を切り離す。2台は別々に都内に消えていく。

既に運用を開始
 これは大和トランスポート(本社富山県小矢部市)が開発した「連結車両」の運用風景だ(図)。既に2004年11月から1組・2台が実証試験を始めており,2005年8月中には改良を加えた2組目も試験に入る。さらに同社の大口ユーザーである三協立山ホールディングス(本社富山県高岡市)からの発注によって10組・20台という規模の計画も動きだした。
 運送会社にとって,人口減少時代を待つまでもなくトラック運転手の不足は深刻だ。しかも,同じ需要を満たすのに必要な人数が今後増える,という特殊事情がある。過労運転,居眠り運転による事故が問題になったことを受けて,厚生労働省が労働時間の指導を厳しくしてきたからだ。「週40時間」の枠を守らないと,事故が起きたときの監督責任を厳しく問われる。今まで「時間外」で対応してきた分だけ人数を増やすことを強いられる。

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図●試験運用中の「連結車両」
全長は高速道路に乗り入れる場合で18mまで許される。


【PART2】任せなさい
(2)見回る

ロボットが現場を自動撮影
「証拠」は無線LANで伝送

 綜合警備保障は,ロボットを使った警備業務を2006年中に始める。ロボットを活用することで,省力化による人件費の削減と,カメラ映像などによる警備業務の質の向上を見込む。顧客は,従来以上の警備サービスをより安い価格で利用できる。オフィスビルやホテルといった顧客との間で,新サービス導入の話がまとまりつつある。
 常駐警備を想定し,同社が開発したのは「ガードロボD1」(図)。同社が手掛ける警備業務は,不審者発見や設備点検を目的とする「常駐警備」のほかに,異常発生時に警備員が現場に駆け付ける「機械警備」,現金を輸送する「警備輸送」がある。そのうち常駐警備は巡回や設備点検といった繰り返し作業が多く,ロボット導入による省力化が見込めた。

犯罪予防効果が高い
 ロボットの位置付けは,人間の完全な代行ではなく,あくまで人間との協業。階段巡回や施錠管理など,ロボットにはできない作業があるからだ。
 具体的には,あらかじめ入力した経路に沿って走行し,カメラで撮影した映像を警備センターに送信し続けることで,巡回の役目を果たす。常に映像を送るという点で,人間による巡回より警備の質が高い。さらに,重点的に警備したい場所をチェックポイントとして設定しておけば,消火器などの「本来そこにあるべき」ものや,不審物などの「本来そこにあるべきでない」ものの有無も確認できる。

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図●警備ロボット「ガードロボD1」
綜合警備保障が開発。常駐警備業務での運用を2006年中に目指す。


【PART2】任せなさい
(3)記録を残す

声をテキストデータに変換
オペレーターは応対に専念

 コンタクトセンター業務の顧客満足度(CS)を上げるための最も確かな方法,それはオペレーターが電話に出られる時間を少しでも長くすることである。これが簡単なようで難しい。オペレーターには電話に出る以外に,問い合わせに関する報告書を作るという仕事も課せられているからだ。
 コンタクトセンターには,忙しい時間帯と余裕のある時間帯が存在する。忙しい時間帯は,報告書を後回しにすることが多い。ところが,後でいざ報告書に取り掛かると,先ほどの対話の内容がうろ覚えになっていることもある。結果,報告書の正確さが落ちる。2回目の問い合わせで,1度聞いたことを尋ねてしまうかもしれない。
 では顧客との電話が終わったら,すぐに報告書を作ればいいかというと,そうもいかない。忙しい時間帯にそれをやれば,顧客を待たせる。結果,コンタクトセンターのCSは悪くなる。
 そこでNECは,コンタクトセンターのこうした悩みを解決するためのソフトウエア「VisualVoice」を開発した(図)。これは,オペレーターが発した音声を,即座にテキストデータへと変換するもの。画面に表示されるテキストデータを切り張りするだけで,簡単に報告書を作れるので,報告書の作成が楽になる。さらにテキストデータを日時やキーワードとともに自動でデータベースに保存するので,混雑時は電話応対を優先し,報告書を後回しにしても,後で顧客とのやり取りを忠実に再現できる。

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図●「VisualVoice」の機能(a)と,テキストデータ変換画面の一例(b)
顧客と話すオペレーターの発した言葉を,即座にテキストデータに変換する。この画面は,導入先のコンタクトセンターに合わせてカスタマイズする。


【PART2】任せなさい
(4)タマネギの下ごしらえ

人海戦術での前処理から脱却
トレーサビリティーも確保

「よその機械を買ってみたけど,全然ダメだった。ならば自分で造るしかない」――。キッチンジロー(本社東京)会長の小林二郎氏は,タマネギの自動下ごしらえ装置「タマジロー」を開発した理由をこう語る。
 同氏は,東京都内で多店舗展開する洋食店の経営者。仕事柄,野菜の調理前処理の自動化技術に関しては目を配ってきた。「今,皮むきが自動化できていないのはジャガイモくらい」(同氏)という。


【PART2】任せなさい
(5)入浴・就寝介護

家電の制御を応用し
介護者の負担を和らげる

 介護浴槽「hirb(ハーブ)」と介護ベッド「hist(ヒスト)」は,三洋電機グループが開発した初めての介護機器だ。両製品は,介護機器の開発・販売を手掛けるハンディネットワークインターナショナル(本社大阪府箕面市,以下HNI)代表取締役である春山満氏のアイデアを具現化したもの。同氏が,開発のパートナーとして大手の介護機器メーカーではなく三洋電機を選んだ理由は「家電に使う制御技術が必要だった」(同氏)からである。


【PART2】任せなさい
(6)肉を焼く

“鉄板”の余熱だけで焼く
赤外センサで温度を管理

 ステーキといえば,日本では立派な高級料理だ。それを客単価700~800円という気楽なファストフードにしたのがペッパーフードサービス(本社東京)。主力の「ペッパーランチ」は全国100店舗を超える人気店で,海外進出も始まった。現在も規模を拡大中で,フランチャイズを募集している。その成功の秘密は肉の焼き方を根底から変えてしまったことにある。


【PART2】任せなさい
(7)米を作る

“田植え”はシートを敷くだけ
商品にならない綿を有効利用

 米という字は八十八と書く。だからお米には88の手間がかかっている・・・昔からこういわれてきた。労働力が買い手市場だった時代にはこれが“美談”だったが,人口減少時代ではとんでもない話だ。88も手間をかけるような農法をしていては,日本人がうまい米を食べられなくなってしまう。


【PART2】任せなさい
(8)野菜を作る

耕さず,地面に穴をあける
ロボット化にも道筋

 耕作,耕地,耕運・・・「耕す」は農業とほとんど同義語だった。しかし「耕すのは何のためか」を突き詰めて考えるとどうなるか。「なぜ」を5回繰り返すとどうなるか。東京農業大学ロボット農業リサーチセンター研究代表(当時。現在は客員教授)の玉木浩二氏はそれに対する答えを得た。「耕す必要はない」である。


【PART2】任せなさい
(9)ご飯を盛る

仲居さん顔負けの「ふんわり」
羽根とローラでご飯をほぐす

 今,温泉旅館は元気なお年寄りであふれている。食事の定番はバイキングだ。昔ながらのお膳を使って仲居さんがお給仕するのは,人件費を負担できる一部の超高級ツアーに限られるだろう。
 バイキングでも仲居さんは必要だ。お櫃の前に立ってご飯を盛る仕事がある。安い旅館や会社の寮では,ここまでセルフサービスにしてしまうのだが,水を入れたコップにしゃもじを浸した姿は美しいものではなく,利用客の失望は大きい。

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