特集
読者参加企画第2弾 IT導入・失敗の理由


 大金を投じて導入したITシステムなのに,現場に定着しなかった,使ってはいるが期待通りの成果が出ていない,開発費が当初予算の何倍にも膨れ上がった—。IT導入・運用にまつわる失敗・トラブルは枚挙にいとまがない。さらに,最近は短期化・低コスト化が求められるようになり,成功のハードルはますます高くなっている。そこで,2004年11月号特集「トラブルがあなたに迫る」に続き読者に失敗・トラブル事例を取材し,IT導入の難しさを探ってみた。そこから見えてきたのは,立場や部門が違う者同士のコミュニケーションのまずさと意識のズレだ。(吉田 勝)

Part1 総 論
コミュニケーションが足りない
失敗招く意識のズレ

 多大なコストと期間をかけてITシステムを導入したのに思ったような効果が出ない,導入したシステムがなかなか現場に定着しない,必要な機能がなくて使いにくい—。IT導入でよく聞く悩みや失敗だ。
 IT導入は,業務の効率化やコスト削減などを目的とした業務改革(BPR:Business Process Reengineering)の一環であることが多い。単なるソフトウエアのインストールで終わらないところが,IT導入・運用の難しい点だ。
 誰もが最初から失敗したいと思っているわけではない。それなのに,なぜ問題や不満が噴出し,思ったような成果が上がらないのだろうか。

Part2 事例編 事例1
組織のカベが統一阻む
コスト1/5になるはずが…

 「10億円のコストを2億円程度にできるのに…」。大手電機メーカーT社で生産設備の情報システムを担当するR氏は嘆く。工場ごとにシステム導入の方針が異なるため,生産管理システムを統一できず,大いに無駄が発生しているというのだ。
 T社のSカンパニーの開発部門は,商品群ごとのグループに分かれている。生産部門は複数の工場を持ち,それぞれ特定の開発不ループの生産を主に担当する。このグループ同士が意思疎通できていないのと,全社共通の情報システム部門が指導力を発揮できないため,システム導入の考え方がバラバラとなっている。
 もともとR氏が担当する開発グループ向けの工場は,他の工場に比べて早くからIT化に取り組んでおり,先行してパッケージの生産管理システムを導入していた。

Part2 事例編 事例2
ユーザーの自主性高めるも
システム乱立で使いにくく

 「管理レベルもまちまちだし,システムが20も30も乱立して使いにくい」—精密機器メーカーU社のP氏が不満を抱えているのは,同社が販社も含めてグループ全社に導入しているグループウエアの使い勝手だ。かつて,基幹システムをホストシステムからダウンサイジングする際に,グループウエアを導入,全社へ展開した。
 同社は,全社共通の情報システム部門がITシステムのインフラを整備し,各部のシステムは担当部署がそれぞれ構築する体制を採っている。
 情報システムのスキルが高い部門は,グループウエア内に自ら,自分たちの業務を効率化するシステムを構築している。スキルがない部門は,情報システム部門や外部業者に委託して構築する。
 ところが,情報システム部門に申請書を提出すれば,簡単にシステム構築が認められる。このため,さまざまなシステムが雨後のたけのこのように乱立しているのだ。

Part2 事例編 事例3
ノウハウが作り込めない
現場への密着が困難に

 大手電気メーカーV社で,CAD/CAM/CAEや金型設計支援システムなど,自社の製品開発に使うためのツール開発に携わってきたO氏は「以前と違って,システム要員が現場と一体となってシステムを作り込むのが難しくなった」と危機感を募らせる。
 同社は,パッケージシステムが一般化する前の早い時期から3次元CADや設計支援システムの開発に着手し,独自のシステムを構築。その中で現場の持つ経験やノウハウをシステム化することによって,競合他社との差別化を図ってきた。
 これまでに築いたシステムで,特に導入・運用に失敗したというわけではない。だが,近年そうしたシステムを継続的に維持していくのが難しい状況にあるというのだ。