材料力学マンダラ
第3巻 低い初期締め付け力に「益」はなし

広島大学大学院教授 沢 俊行


●世の中で起きている事故の多くは,疲労が原因
●「日航ジャンボ機」も「もんじゅ」も,応力集中で大事故に
●「ねじを緩く締め付けると,壊れにくい」は,疲労も招く「迷信」


 あれは,1985年8月12日のこと。羽田発伊丹行きの日本航空123便(ジャンボジェット)が群馬県・御巣鷹山に墜落し,520人の尊い命が犠牲になった。この時,事故調査に当たった当時の運輸省事故調査委員会が発表した調査結果は,おおむね次のような内容でした。
 墜落事故からさかのぼること7年前。1978年6月2日,問題のジャンボジェットは伊丹空港で尻もち事故を起こした。この時,製造元の米Boeing社が修理に当たったものの,それが不適切で圧力隔壁に金属疲労が発生。そして運命の1985年8月12日,金属疲労はついに破壊に発展し,4系統ある油圧操縦システムすべてが壊れて操縦不能に陥った─。
 この調査結果に出てくる「金属疲労」という専門用語は,この事故をきっかけに世の中に広く認知されるようになりました。併せて,疲労による事故が頻繁に起きているということも。
 実際,社会的に大きな関心を集めた事故としては,日航ジャンボ機墜落事故から10年後の1995年12月8日に起きた,動力炉・核燃料開発事業団(現・核燃料サイクル開発機構)の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故が挙げられます。