キラリ輝く中小企業
真空注型の仕掛け人,三愛

市販品を見限った試作メーカーが自前の材料と装置で市場を切り拓く

 東京郊外の新興住宅地。駅周辺の高層マンション群を通り抜けると,所々に畑が現れてくる。目的の工場はその先,宅地開発前の面影をまだ色濃く残す雑木林の中に建つ。

 工場の中には,コインランドリーと見まがうばかりの装置がズラリ。聞くと,中は真空減圧状態で,構造は上下の2階建て。なるほど,だからのぞき窓が上下に二つある。そこから中を見てみると,2階部分には液体をかくはんする装置が,1階部分には白い樹脂の塊がある。使い方は,ポリウレタン(PUR)に硬化剤を投入してかくはんし,ころ合いを見計らって真下の白い樹脂の中に流し込む。白い樹脂の正体は,シリコーンゴム製の試作型。つまり成型後,樹脂を取り出し加熱すれば,試作品の出来上がりというわけだ。

 この「真空注型」と呼ばれる手法を駆使し,樹脂の試作を手掛けるのは三愛。取引先は自動車,電機,医療など多岐にわたり,その数は現在1200社を超える。同社は知る人ぞ知る,試作メーカーである。

 だが,それだけではない。同社はもう一つ別の顔,試作に使う真空注型機を製造し外販するという装置メーカーとしての顔を持つ。その国内シェアは実に9割。1980年代後半から現在に至るまで,累積で国内向けに350台,海外向けに500台を売ってきた。

 「にわとりと卵」の議論でいえば,同社の場合には試作メーカーが先の姿。ある時,市販の真空注型機を購入し試作に利用した。しかし,ある「不満」をきっかけに,同社は装置メーカーに転身していく。話は,1970年代にさかのぼる。

【会社概要】樹脂などの試作・量産と,真空注型システム「サイクロンシステム」の製造・販売,工業デザインなどを手掛ける