1970年代に,エレクトロニクス産業に飛び込んだ技術者が退職の時期を迎える。テクノロジー・ドライバがコンピュータ産業からデジタル家電へとシフトした今,産業勃興期を体験したベテラン技術者の知見が生きる局面もあるだろう。先人が身につけた知識と経験を若い技術者に伝承しようという動きが具体化し始めた。

第1部<創造の時代>
勃興期から30年を経て 1970年代への原点回帰

 1970年代--。日本のエレクトロニクス業界は勃興期にあった。新技術が1つ,また1つと芽吹き,その応用先が次から次へと広がった。技術が新市場を創出する。そこで潤った企業が研究開発に資金を投入し,次なる技術革新がもたらされる。こうしたポジティブ・スパイラルによってエレクトロニクス産業を継続的に発展させるための礎を築いたのがこの時期である。

 それから30余年を経た現在,時代の節目に差し掛かっている。当時,エレクトロニクス業界に飛び込んだ技術者が退職の時期を迎えている。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を遂げた時期を経験したベテランの技術者が研究開発の現場から,間もなくいなくなる。

 ベテランの技術者が会社を去ることに起因する技術の空洞化への警鐘はここ最近,情報システム分野でしばしば取りざたされている。いわゆる「2007年問題」だ。国内のエレクトロニクス業界も,同じ課題に直面している。

第2部<明日への備え>
試行錯誤の経験こそが 先人から受け継ぐ財産

 研究開発の現場において,ベテランが身に付けた知識や知恵を若手技術者に伝承しようという動きが具体化し始めた。伝承するための基本的な手段は,やはり文書にすること。経験したことや,頭の中にあることを文書として残す。さらに,それをデータベースなどの仕組みを使って多数の技術者に広める。これが大原則だ。

 文書化するのが難しいこともある。その場合に王道はない。ベテランと若手のコミュニケーションを通じて伝えていくしかない。このとき,ベテランと若手の付き合い方が伝承の成否を左右する。

[付録1]我が社のベテラン研究者 総勢33人の多彩な顔触れ

第3部<インタビュー>
12社の研究トップにの一手を聞く

松下電器産業/日立製作所/ソニー/東芝/NEC/富士通/シャープ/三菱電機/三洋電機/NTT/キヤノン/沖電気工業
インタビューの詳細

[付録2]読者調査に見る「伝承」の真実