本誌は、国内の先進的な工場を表彰する「日経ものづくり 強い工ワード」を開催し、このほど審査結果を発表した。第1回となる今回の対象は、特徴的な建物や施設を備え、そこでしかできない製品/部品を造っている工場である。受賞工場の責任者に、ものづくりの考え方を聞いた。(大石基之、高野 敦=日経テクノロジーオンライン)

【大賞】サイベックコーポレーション 夢工場

ものづくりはエンタテインメントだ
平林巧造氏(サイベックコーポレーション 代表取締役社長)

─―「強い工場アワード」の審査では、地下工場というコンセプトもさることながら、年間売上高(約20億円)を上回る28億円を投資した点も高く評価されました。なぜ、これほどの投資に踏み切れたのでしょうか。

平林氏:私は、国内で物を造り続けたい、日本でものづくりにこだわっていきたいと思っています。ものづくり企業には、物を造って技術を高めるだけではなく、後世の子供たちにものづくりを残すことも使命であると考えています

 その上で、変化が激しく、ものづくりを取り巻く状況が厳しい中、なぜこれほどの投資をしたのかといえば、絶対的な品質を実現するハードが欲しかったのです。そのためには、ある程度の投資を覚悟してでもやろうという強い思いがありました。

 新工場に「夢工場」という名前を付けたのも、同様の理由からです。我々の夢でもある仕事で社員やその家族が幸せになり、お客様や地域社会に貢献する会社になるという夢を追うための工場です。

 国内で物を造り続けるには、世界のどこにもないような工場にする必要があったし、社員も世界で唯一の工場だと思えるようにしたかった。実際、金型業界でこれほどの地下工場を設立したのは、当社が初めてだと思います。

 地下工場では、壁や床を真っ白にするなど、近代的な仕様を取り入れました。「製造業で白はタブー」などと指摘されましたが、我々は新しいアイデアが生まれる環境を求めていたので、必要だと思ったものはどんどん採用しました。我々が目指すのは、単にお客さまの要求通りに物を造ることではなく、自らのアイデアや発想で喜んでいただけるものづくりです。それは、社員に「やれ」と言ってすぐにできるわけではありません。優秀な人材と適切な環境があって、初めて実現できるものです。

サイベックコーポレーション代表取締役社長の平林巧造氏
サイベックコーポレーション代表取締役社長の平林巧造氏
写真:上野英和

* サイベックコーポレーションでは、子供がものづくりと接する場を多数用意している。例えば、社員の子供には「家族交流会」や「会社参観日」として、地域の小中学生には「出前授業」や「工場見学会」として、さまざまな形でものづくりを体感できる機会を設けている。