先端をいく技術に触れられること、それが世界にあまたあるモーターショーの中でも東京モーターショーが持つ最大の魅力だろう。東京モーターショーに照準を合わせ、世界を驚かす技術を開発しようとする、日本メーカーの技術者の努力のたまものだ。

 「第43回東京モーターショー2013」(一般公開は2013年11月23~12月1日。会場は東京・有明の東京ビッグサイト)もまた、自動車分野における「先端技術の祭典」の名にふさわしいものとなった。今回の展示の目玉は、近い将来を見据えた環境負荷を軽減するエコカー技術である。高効率エンジン車と燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)といった、3種類のエコカーでキラリと光る技術が見られた。

【高効率 エンジン車】

 高効率エンジン車の中で、技術的に最も光った展示が、スズキが2013年12月18日に発売した軽自動車「アルトエコ」だ(図1)。理由は、ハイブリッド車(HEV)を除くガソリン車としてトップの低燃費を実現したこと。その燃費(JC08モード*1、以下同)は35.0km/Lと、従来のアルトエコの33.0km/Lに対して1L当たり2.0km距離を伸ばした。2013年8月に発売して以来、33.4km/Lで低燃費の頂点に立っていたダイハツ工業の軽自動車「ミラ イース」から首位の座を奪取した。

 アルトエコは、スズキにとって低燃費の看板車種だ。同年3月に発売したモデルで燃費を30.2km/Lから33. 0km/Lに向上させた際には、減速エネルギ回生機構「エネチャージ」や、時速13km以下でエンジンを停止するアイドリング・ストップ機構など電気・電子デバイスを採用した。コスト制約の大きい軽自動車でこうした燃費改善デバイスを搭載することは楽ではないが、技術の難易度で見ると比較的簡単な燃費改善方法とも言える。

 これに対して新しいアルトエコは、“本丸”であるエンジン「R06A」の設計変更に取り組んだ(図2)。後述の通り、スズキはピストン形状まで変えた。「ピストン形状を変えると、燃料噴射のタイミングや量、点火タイミング、可変バルブタイミング機構や無段変速機(CVT)の制御など、エンジンの制御の全てを一からやり直さなければならず、開発に大変な工数がかかる」(スズキ四輪エンジン第一設計部第一課長の田中竜司氏)。それでも実行した点に、低燃費トップの座の再奪取に懸けたスズキの強い意気込みが感じられる。

 燃費向上のために、スズキはまず圧縮比を11.2と、従来の11.0から0.2ポイント高めた。圧縮比を上げるとエンジンの効率(理論熱効率)が高まり、低燃費となるからだ。ただし、単に圧縮比を高めるだけでは、燃料が正常な燃焼を終える前に、過剰な高圧と高温にさらされた未燃燃料が自己着火するノッキング(異常燃焼)を起こす危険性がある。