「燃えやすい」「加工が大変」「高い」―─。そんな印象がつきまとうMg合金。かつて軽量化材料として注目を集めたが、期待されたほど大きく広がらなかった。しかし、そんな期待倒れの汚名を返上し、Mg合金が変わろうとしている。材料や加工技術の進展により、安全で使いやすい軽量化材料になりつつあるのだ。さらには電池や水素貯蔵といったエネルギ分野での新規開発も進む。雌伏の時を越えて、Mgがその実力をようやく開花させようとしている。(吉田 勝、中山 力)

弱点の克服

「燃える」「加工しにくい」との決別
Mg合金の常識が変わる

 実用金属中最も軽く、比強度も高いマグネシウム(Mg)合金。ノートパソコン(PC)や自動車部品、カメラの筐体に使われれるなど珍しい材料ではない。とはいえ、汎用材料と呼ぶにはほど遠く、かつて期待されたほど身近なものにはなっていない。

期待したほど伸びず

 国内では、1980年代にダイカスト技術が進んでMg合金が普及し始めた。1990年代になると、チクソモールディング技術*1が導入されて注目を浴び、家電メーカーやPCメーカーが製品の筐体などにこぞってMg合金を採用した。同年代後半には「銀パソ」と呼ばれる鈍い銀色をしたMg合金製筐体のノートPCが話題となって、PC需要のけん引に一役買った1)。こうしてこの頃は、国内のMg需要も大きく伸びたのである。

 しかし、普及と言えるほどは浸透しなかった。2004年頃から国内需要は頭打ちとなり、2007年に最高需要量を記録した後は、リーマン・ショックの影響もあって需要は低迷し、4万t/年あたりを行ったり来たりしている(図1)。特に、自動車で期待されていたほど採用が広がらなかった*2

 では、なぜ、軽量化には打ってつけのMg合金が伸び悩んだのか―─。それは、燃えやすく扱いにくい、加工が難しい、コストが高い、といった難点があったからだ。加えて、現在主流のダイカストなどの鋳造材では、寸法精度や表面性状に難がある。これらの難点が、実用金属で最軽量という圧倒的な特徴をも覆い隠し、用途と需要を細めてしまったのである。

〔以下、日経ものづくり2013年12月号に掲載〕

図1●Mgの国内需要の推移
1990年代から2000年代前半にかけては大きく伸びたが、2004年ごろから頭打ちとなっている。日本マグネシウム協会の資料を基に本誌が作成。
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*1 チクソモールディング技術 半溶融状態のMg合金を射出成形する技術。

*2 欧州では、独BMWがシリンダブロックにMg合金を採用するなど大型部品にも使われたが、国内ではハンドルの芯金やECU(Engine Control Unit)ケース、オイルキャップといった小型部品での小規模な利用にとどまっている。

参考文献:1)1998年12月28日付,日経産業新聞,5面.