Part3:丸投げできるから選ぶ

基幹技術も外部に任せる
もう始まっている合従連衡

海外のメガサプライヤーは丸投げに強い。モジュールに組んで納めることで、完成車メーカーの負担を軽くする。この分野に企業規模の小さい日本のサプライヤーは弱い。日本電産グループがサプライヤーを統合する動きを見せている。海外のメガサプライヤーと張り合うための一つの方向を示している。

 自動車のモジュール設計/モジュール生産が普及してきた。エアコンモジュール、コックピットモジュール、フロントエンドモジュールなどをサプライヤーで組み上げ、動作確認までして完成車メーカーに納める。完成車メーカーの開発負担は軽くなり、生産ラインは短くなる。

 この流れに日本のサプライヤーは十分に対応できていない。日本のサプライヤーは一部の例外を除いて規模が小さい。もともと完成車メーカーの数が異常なほど多いうえ、完成車メーカーがそれぞれ関連するサプライヤーを抱えている。

 それがさらに細かく分かれている。成形品のメーカーがあり、歯車のメーカーがあり、シールのメーカーがあり、アンテナのメーカーがある。惣菜屋や弁当屋が流行っている街で、頑として業態を変えない八百屋や肉屋のようなものだ。

表示内容を入れ替える

 ドイツContinental社は現在、HUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)を日本の完成車メーカーに向けて売り込み中だ(図1)。HUD専業でなく、計器類、操作系など内装全体を請け負えるメーカーであることを自らの強みとする。同社は計器盤、補助ディスプレイ、空調制御システム、ラジオ、マルチメディアシステム、テレマティクス、ドアシステム、シートコンフォートシステム、タイヤ情報システムなどをすべてまとめたコックピットモジュールを受注、納入することができる。HUDはあくまでもその構成要素の一つである。画面のデザインもContinental社が仕様を決める。

 HUDは運転者が視線を正面からそらさずに見ることができる。プッシュ型で運転者に情報を与えるため、一番緊急度の高い情報をHUDに表示したい。「何が一番緊急度の高い情報か」は状況によって変わるため、「この情報をHUDに」と固定しない方がいい。初期のHUDには速度だけを表示するものがあったが、それでは困るというわけだ。

 逆に、緊急度の低い情報は表示したくない。車内が情報であふれるようになったなか、余分な表示は運転者の負担になる。より優先度の高い情報が割り込んでくれば、それまでHUDに表示していた情報は緊急情報に譲って別のディスプレイに移動するべきだ。

 そうした使い方をする場合、計器盤、センターコンソールと別のメーカーがHUDを担当すると、完成車メーカーの開発負担が大きくなる。ディスプレイのデザインはプログラムに組み込まれているため、各社の間を取り持つのが完成車メーカーの役割になってしまう。

 現在、日本車の室内のディスプレイを供給するメーカーは機器ごとにバラバラだ。メータのメーカー、オーディオ機器のメーカー、カーナビのメーカーがそれぞれのディスプレイを供給している。日本のサプライヤーも統合する方向で動いているのだが、自動車部品としてのメータメーカーと、カーラジオから始まった電装品メーカーがそれぞれの経緯を引きずっているため、統合はなかなか進まない。

 Continental社のHUDは既に実績がある。世界で初めてTFT(薄膜トランジスタ)のカラー表示を採用したHUDを開発し、2004年にBMWの先代「5シリーズ」に搭載した(図2)。その後、Audi社の「A6」「A7」「A8」、BMW社の「3シリーズ」などに、色数、表現力が増したタイプを積んでいる。

以下、『日経Automotive Technology』2014年1月号に掲載
図1 HUDの画像
走行速度、制限速度など、そのときに一番大切な情報を表示する。
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図2 BMW社の先代「5シリーズ」に使われている表示
下にHUDの構成部品の一部が見える。
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