僕がこの「手載りサイズのラジコンヘリコプター」と出会ったのは、2013年6月中旬に開催された「東京おもちゃショー2013」の会場でのことでした。とあるブースで、僕と同じ年頃の「お父さん」たちが長い行列を作っていたのです。「おもちゃにお父さんの行列?」と不思議に思って行列の先を見てみると、このラジコンヘリを楽しそうに飛ばすお父さんたちの姿がありました。実はこのラジコンヘリ、その後に在庫薄で店頭から姿を消すほどの大ヒット商品になりました。本コラム第1回は、このラジコンヘリのヒットの謎を解いてゆくことにいたしましょう。
この「NANO-FALCON」(以下、ナノファルコン)は、バンダイナムコグループのシー・シー・ピー(本社東京)が2013年6月8日に発売した赤外線コントロールのトイラジコン。全長65mmと手に載るサイズで、価格は4480円(希望小売価格、税別)とトイラジコンの中でも割安の部類に入ります。同年10月現在の販売個数は、約5万個にも上る状況です。
日本玩具協会の調査によると、2012年度の国内玩具市場規模(店頭価格ベース)は6730億円で、前年度に比べて3.5%縮小しました。ところがそのうちのトイラジコンの市場規模はというと、前年度比10%以上もの伸びを示しています。おもちゃショーの会場の様子が物語っているように、このトイラジコンの伸びを支えているのが、30~40代の「お父さん世代」でしょう。
思わずトイラジコンを買ってしまうお父さんの気持ち、1971年生まれで小学生の息子を持つ僕自身が、よく分かります。僕なりにトイラジコンが売れている理由をまとめると、以下の3つになります。
1つめは、安価であること。同世代の男性ならご理解いただけると思うのですが、僕たちが小さかった頃のラジコンは高価で、中でも空を飛ぶラジコンヘリは数万~十数万円もする高価なものばかりでした。それが今や、トイラジコンであれば数千円で手に入ります。お父さんのお小遣いでも十分に買える値段なのです。
2つめは、小型であること。店頭で手に取りやすく、手軽に持ち帰れます。自宅に持ち帰った後も狭い部屋で楽しく飛ばせ、壁や家具にぶつかった時の衝撃が少ないのでお子さんのいる家庭でも安心。会社のデスク周りで密かに飛ばす、なんてお父さんも出てくるかもしれません。
そして3つめは、簡単に操縦できること。実は昔のラジコンヘリは操縦が非常に難しく、「飛ばせる喜び」を実感できるまで長時間の訓練が必要でした。でも、近頃のラジコンヘリは数十分も練習すればすぐに飛ばせるようになります。
では、ナノファルコンがヒットしたのも、これらの理由からでしょうか。いえいえ、これらはトイラジコン全般に言えること。ナノファルコンには、トイラジコンの中でも大ヒットを飛ばすことのできた、もっと奥深い理由が隠されています。ここからは、その理由を「着想」「技術」「事業」の3つの視点からひも解いていきます。
ギネス世界記録の「世界最小」を実現
もちろんナノファルコンを企画した担当者も、小さくて安価、かつ操作性に優れるラジコンヘリを発売すれば、売り上げが見込めることに気付いていました。シー・シー・ピーは、2006年に全長150mmのトイラジコン「ハニービー」を発売し、大ヒットを飛ばした経験があるからです。
〔以下、日経ものづくり2013年11月号に掲載〕