いまやメカ設計者もエレクトロニクスと無縁ではありません。「メカ設計者も知っておきたい エレ設計のABC ~オーツ君の成長記~」では、架空の設計現場を舞台に、製品開発をスムーズに進めるためのエレクトロニクス設計の基礎を解説します。

電波をうまく操るために

 前回、タイシ氏からアンテナの原理とアンテナ設計の考え方について学んだオーツ氏。しかし、電磁波は同時にノイズ源ともなり得る。そこで、電磁波ノイズについて学ぶため、タイシ氏に勧められてユイ氏を訪ねることにした。

 彼女は、タイシ氏の同僚。もともと電気回路の設計者だったが、「設計者は、自分でつくった技術を正当に評価できるようになるべき」と、測定技術者に転身した。そんな経歴から、彼女は電磁波ノイズについては深い造詣がある。

ノイズはいかにして生まれるか

オーツ(以下0)氏:「ユイさん、こんにちは。今日は電波の弊害について教わりにきました」

ユイ(以下Y)氏:「タイシやテツタロウから聞いたわよ。苦労して自分でアンテナを作り上げたそうね」

O氏:「はい。アンテナの何をいじったら特性がどのように変わるかということについて、まだ自分の中で整理できていませんが、とにかく作る、測る、修正する、を繰り返しました」

Y氏:「測定結果を見たけど、最初に試作したアンテナは基板もアンテナになってしまっていたわね。アンテナ設計者は、基板に電流が流れ込んでも必要なアンテナ特性が出ていればいいと思うかもしれないけど、基板設計者にとってはノイズでしょ。それなのに、アンテナ設計がある程度できてからでないと、影響が分からないからノイズに対する対策は後手に回らざるを得ない。つまり、ノイズに対して基板設計者は受け身ってことよね」

O氏:「受け身ということは、何か問題が起こってから対処するしかないんですか」 

Y氏:「そうじゃないの。アンテナのように意図的に電波を出す機器もあるけれど、意図していないのに電波を出す機器もあって、それぞれ対策が異なるの。例えば、電車のパンタグラフなんかは意図していないのに電波を出しているわよね」

O氏:「そうすると、知らないうちに加害者になっている可能性もあるんですね」

 従って、機器設計においては、自ら発するノイズおよび外部からのノイズの影響を受けないようにすると同時に、他の回路やシステムに影響を与えないようにするにはどうするかというバランスが求められる。これを「EMC」(Electro Magnetic Compatibility)*1と呼ぶ。

Y氏:「電波を出す側、受ける側の状態に着目して、両者の立場が不公平にならないようにバランスを重視するということも含めて、日本ではEMCを環境電磁工学と呼んだりするのよ。とても良いネーミングだと思うわ」

 

O氏:「そもそもノイズってどこからくるんですか。アンテナから以外にもありますよね」

Y氏:「そうね、例えば集積回路(I C)なんかはノイズ源になりやすいわね。今の電子機器はほとんどデジタル回路を搭載しているでしょ。ICのようなデジタル回路には、オンとオフを切り替えるスイッチング回路が付きもので、これがくせ者なのよ」

 

〔以下、日経ものづくり2013年10月号に掲載〕

*1 電磁両立性、電磁環境両立性などと呼ばれる。

前田篤志(まえだ・あつし)
O2 Lab. リサーチフェロー
米国で高周波(RF)技術を教える傍ら、マネジメント要素を盛り込んだ独自の「RF Management」論を構築。現在は特許工学などの講義を基に、現象論に立脚したエレクトロニクス教育の啓蒙に努める。

【会社紹介】
O2 Lab.は、設計開発領域におけるコンサルティングを手掛けるO2の研究開発部門。ビジネスシーズを新規事業にまで育て上げる顧客専属の研究開発機関である。URLはhttp://www.o2-inc.com/lab/