三菱自動車のプラグインハイブリッド車(PHEV)「アウトランダーPHEV」に不具合が相次いだ。Liイオン2次電池が発熱・発火したことに加えてソフトウエアでもリコールを届け出た。電動化と電子化が急速に進むなか、同社の事例は他人事ではない。Part.1では、三菱自動車の不具合が起きた原因を明らかにする。一方ソフトウエアでは最近、各社で三菱自動車と同様の不具合が起きている。Part.2ではソフトウエア不具合の傾向を分析し、各社の先進的な取り組みを紹介する。 (清水直茂)

Part 1:三菱自動車の教訓

異なる技術分野の視点を取り入れる
「あうんの呼吸」では不十分

「アウトランダーPHEV」のLiイオン2次電池が発熱し、発火した。原因は、製造ラインでの電池の落下と測定器の設定を誤ったこと。電池だけではなく、ソフトウエアの不具合も多かった。背景には急速に進む電動化と電子化に対して、従来の方針のままで開発に臨んだことがありそうだ。

 三菱自動車が2013年1月末に発売したプラグインハイブリッド車(PHEV)「アウトランダーPHEV」(図1)。同車のLiイオン2次電池のセルの電極がショート(短絡)し、電池パックの発火や溶損を起こした(図2)。ソフトウエア関連の不具合も多く、これまでに2件のリコールを国土交通省に届け出たことに加えて、3件のサービスキャンペーンを実施した。同社は電池の不具合が見つかった後の2013年4月に2回の記者会見を開き、経緯や原因などを報告。同年7月にはリコールの対象となった電池を交換する作業を公開した。

 三菱自動車が2013年3月に報告したLiイオン2次電池関連の不具合は4件ある(表1)。そのうち1件が電気自動車(EV)「i-MiEV」、残る3件がアウトランダーPHEVに起きたものだった。4件とも顧客に車両を届ける前に見つかっている。

 すべて似た内容で、充電中の発熱や発火、そして充電後の発熱である。三菱自動車と、電池セルを製造するリチウムエナジー ジャパン(GSユアサと三菱商事、三菱自動車の合弁会社、以下LEJ)が共同で4件の車両や電池を調べたところ、セルの正極と負極が短絡している可能性が高いことが分かった。

2種類のセルの原因は共通

 電池の不具合を見つけた後の三菱自動車の対応は早かった。同社は4件を公表した約2週間後の2013年4月10日に中間報告をまとめ、約1カ月後の4月24日に原因を報告した。その後、対策を考えて6月4日にアウトランダーPHEVとi-MiEVのLiイオン2次電池に関して国土交通省にリコールを届け出る。そして8月中旬までに車両を回収してすべての電池を交換し、同月25日に車両の生産を再開した。

 電極が短絡した原因は、故障解析の手法である「FTA(Fault Tree Analysis)」などを使って調べた。FTAでは「内部短絡」をトップ事象に置き、例えば製造ラインを対象にしたものでは100以上の要因を考えた。そして、電池の短絡から今回の不具合につながる可能性が高い要因について再現実験をして確かめた。その結果、電池セルの検査工程に新しく導入したスクリーニング工程に二つの原因があったと結論づけた。二つとは、(1)作業者が電池セルを落として大きな衝撃を与えたこと、(2)測定器の設定を誤って電池セルに大きな振動を加えたこと─―である。

 三菱自動車とLEJは、(1)のセルの落下が、販売店で電池パックのケースが溶損したことや、岡山県・水島製作所で充電中に発火したことなど3件の不具合の原因とする。一方、(2)の設定ミスは、残る1件の販売店でアウトランダーPHEVを充電中に電圧が下がって満充電に達しなかったことの原因とした。

 今回不具合があった電池セルにはアウトランダーPHEV用とi-MiEV用の2種類がある(表2)。原因の報告と対策に当たって三菱自動車とLEJは、2種類の電池セルに起きた不具合の原因は共通しているとみなした。

 二つの電池セルはともにLEJの滋賀県・栗東工場で生産するが、製造ラインは異なる。それでも原因は共通すると考えたのは、2種類の電池セルを構成する材料やラインの構成、製造装置、作業手順をすべて同じにしてあるためだ(図3)。一方の生産量が急に増えたときにもう片方のラインですぐに増産できるようにする狙いがある。

 2種類の電池セルは外形寸法などが少し違うが、これは同じ製造装置の設定を変えて作り分ける。このため、原因が製造ラインにあると分かった時点で共通の原因と考えて対策を打った。