2013年6月号から「関伸一の強い工場探訪記」をお届けしています。日本にあるさまざまな業種の工場を、工場長の経験もある筆者の関氏が訪問し、表面的な数字だけでは分からない優れた工場の強みや特徴など現場のありのままの姿をお伝えします。

森に佇む工場の強さは風通しの良さとセル生産

「HIOKI」ブランドのテスタを、技術者の皆さんなら1度は手にしたことがあるのではないだろうか。今回は、そのテスタをはじめさまざまな電気計測器を造る日置電機の本社工場を訪問する。

歴史を物語る展示エリア

 日置電機は1935年、東京都港区で創業した。1945年には戦火を逃れ、長野県坂城町に本拠地を移転。そして隣町とも言える現在の上田市にこの工場を建設したのが1990年のことだ。2006年には新棟(B棟)を増設し、旧棟(A棟)と接続して新たな工場を「ソリューションファクトリー」と名付けた。

 広く清潔なエントランスで筆者を出迎えてくれたのは、同社総務部広報担当課長の鳴沢純子氏と経営企画室係長の水出博司氏の2人である(図1)。

 まず案内されたのは、広く美しい製品展示エリアである(図2)。創業時の製品から最新製品まで、製品カテゴリー別に展示されていて、同社の約80年の歩みを雄弁に物語っている*1。中でも目を引くのは、やはり創業時の製品群だ。

 例えば図3は1946年に発売したテスターの第1号機「H甲號回路試験機」。木製の筐体とアナログメータ、数多くの丸孔端子が重厚な雰囲気を醸し出している。

 全ての展示品を見た上で筆者は「日置電機は専門メーカーとして発展を続け、創業から現在まで、その時代の要求に応える製品をスピーディーに提供してきたのだな」と感じた。エレクトロニクス技術の急速な進化に対してタイムリーな製品を提供し続けるには、強い開発力が必須条件だ*2。それを支えるために、日置電機の技術者の数は全社員の1/3以上、研究開発費は売上高の10%を占めているそうだ。

コミュニケーション重視の現場

 次に訪れたのは、ソリューションファクトリーのB棟2階にある組立工程の現場だ。製造部製造二課課長の藤木徳久氏に案内してもらった。

 
〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図1●工場を案内してくれた鳴沢純子氏(左)と水出博司氏(右)
図1●工場を案内してくれた鳴沢純子氏(左)と水出博司氏(右)
図2●製品展示エリア
図2●製品展示エリア
創業以来の製品がカテゴリー別に展示されている。
図3●1946年に発売されたテスタ「H甲號回
路試験器」
図3●1946年に発売されたテスタ「H甲號回 路試験器」
日置電機製テスタの第1号機である。

*1 現時点での製品カテゴリーは、自動試験装置、記録装置、電子測定器、現場測定器の4つに分類される。使用領域(顧客)は、電子部品分野、自動車分野、環境・新エネルギ分野、建設、化学、食品、医療など多岐にわたる。

*2 新しい製品を生み出す構想設計をスピーディーかつ確実に製品化するために3D-CADをはじめとするIT技術が必須となる。近年は機構・電気回路・ソフトウエアを3D-CAD上で連携させて、検証できるツールも提供されている。水出氏も2012年度までは技術者として3D-CADやCAEの導入、普及を進める業務を担い、「三次元設計能力検定試験」の受験を社員に促して多くの優秀合格者を生んでいる。

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経てローランド ディー.ジー.に入社。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。28年間の製造業勤務を経て、3年前に「関ものづくり研究所」を設立。静岡県浜松市在住の55才。