第2部 事例

事例1 ホンダ 寄居工場【コスト削減】

世界最短の塗装ラインを構築
稼働までの期間も半減

 「ショートプロセス(縮減率)の要求水準が高まり、実用化までに許される時間も短くなっている」。ホンダが新工場である埼玉製作所寄居工場(埼玉県・寄居町)に設置した、クルマのボディー塗装のコンパクトライン「Honda Smart Ecological Paint」の開発に携わった本田技研工業埼玉製作所SS-PESC技師の高橋雅樹氏はこう語る(図1)。

 新しい塗装ラインは、2013年7月の寄居工場の稼働開始とともに始動。まずは現行のミニバン「フリード」で立ち上げ、続いて同年9月に発売予定の新型コンパクトカー「フィット」に適用する計画だ(図2)

 実は、ホンダの生産技術者にとって「ショートプロセスや工程集約は習い性のようなもの」(ホンダエンジニアリング車体塑型技術部車体塑型技術BL技術主任の齋藤和也氏)。かつて大手の自動車メーカーと比して規模が小さかったことから、「これまでホンダが開発してきた生産ラインは必然的にコンパクトラインだった」(ホンダエンジニアリング事業企画室技師の福森雅之氏)。

 そのホンダに今、変化が起きている。コンパクトな生産ラインを追求する姿勢は不変だが、冒頭の言葉の通りその要求水準が飛躍的に高まっているのだ。背景には危機感がある。2008年に起きたリーマン・ショックと、それに続く東日本大震災、タイの大洪水といった逆境がホンダを変えた。寄居工場に導入された新しい塗装ラインはそれを証明するものだ。

〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図1●クルマのボディー塗装のコンパクトライン
図1●クルマのボディー塗装のコンパクトライン
ライン長を従来よりも40%削減した世界最短の塗装ライン。2013年7月に寄居工場で稼働を開始した。
図2 ●新型「フィット」(奥)と「フィットハイブリッド」(手前)
図2 ●新型「フィット」(奥)と「フィットハイブリッド」(手前)
2013年9月に発売予定で、寄居工場で生産される計画。

*寄居工場で造られる前のフリードは従来の塗装ラインで塗装されたもの。ただし、塗装品質は新旧の塗装ラインで変わらない。

事例2:大豊工業 細谷工場【コスト削減】

過剰品質を見直し工程を集約
ライン長は半分、コストは2割減

 コンロッドやクランクシャフトに使うエンジン軸受を製造する大豊工業の細谷工場(愛知県豊田市)は、2012年7月に「RRライン」と呼ぶ新しい生産ラインを稼働させた(図1)。RRは「良品廉価」の頭文字を取ったもの。品質を維持しつつ製造コストを低減することを狙い、ライン長を大幅に短縮させた生産ラインだ。現在、月産1100万個の同工場において、RRラインでは安価な製品を中心に月産で約60万個を造っている

品質は維持、価格競争力は強化

 RRラインを構築した背景には、新興国での自動車市場の拡大などに伴い、顧客である自動車メーカーが低価格のクルマの生産を増やし始めたことがある。低価格なクルマの増加に伴い、エンジン部品も新興国市場を意識した安価なものが求められるようになり、価格競争力の強化に迫られた。

 そこで、一定の品質を維持しつつ、コスト低減と安定供給を両立でき、かつ将来グローバルに展開できる新ラインとして構築したのがRRラインだ。顧客から求められる製品の性能、機能を落とすことなく、製造工程の削減や集約によってラインをコンパクト化し、製造コストの削減を狙った。このため製品の設計も見直した。工程を再編するために、顧客とともに軸受の設計や仕様自体を再検討したのである。

 RRラインの開発が始まったのは2010年。開発当初から生産性向上のアプローチとして、工程の集約や入れ替え、ラインのコンパクト化を念頭に置いていたという。

 元々、大豊工業のエンジン軸受生産は、米Federal-Mogul社の技術指導の下に始まった。基本的にはFederal-Mogul社の手法を踏襲し、同様のラインを増やして生産量の増大に対応してきた。その結果、従来は軽自動車向けから高級車向けまで、あらゆる製品を基本的に同じライン、同じ製法で造っていた。

〔以下、日経ものづくり2013年9月号に掲載〕

図1●大豊工業細谷工場のRRライン
図1●大豊工業細谷工場のRRライン
加工コスト削減を目指して、工程を集約・省略した。手前から奥に向かってワークが流れる。RRは「良品廉価」の頭文字。

* 大豊工業全体では約3000万個/月。