「『つなげない』を『つなぐ』 最新接合技術の可能性」では、専門の技術者・研究者が、従来は難しいとされていた接合を実現する最新技術のメカニズムや既存技術の基礎と新たな応用展開の広がりなどについて、6回にわたって解説します。

状態図から異種金属の接合の可否を判断

 近年、部材や製品の高機能化の要求に合わせて、使用する構造材料にもより高い材料特性を持つものや特別な機能を有するものが求められている。しかし、そのような材料は汎用材料に比べて材料コストや加工コストが高いという欠点がある。

 そこで、高機能とコスト削減を同時に満たす材料として、2つ以上の材料を組み合わせる「マルチマテリアル」という考え方がものづくりの現場で広がっている。必要な機能を有する材料を局所的に配置するのだ。そのために必要な技術が、金属同士もしくは金属と非金属を接合する異種材料接合技術である*1

 経済産業省の2013年度未来開拓研究プロジェクト「革新的新構造材料等技術開発」でも、新構造材料の開発と併せて異種材料接合技術の開発が主要課題の1つとして取り上げられている。

 実は、異種材料接合技術は、必ずしも目新しいものではない。炭素鋼や合金鋼、ステンレス鋼などの異なる鋼種をアーク溶接などの溶融溶接を用いて接合する「異材溶接技術」として発達してきた歴史がある。こうした異材溶接は、鋼材、溶接材料の両面で技術開発が進んでおり、鉄鋼や造船などの重厚長大産業を中心に既に広く利用されている。

 一方、昨今注目されている異種材料接合技術は、より広範囲の材料間の接合を対象にしており、鉄鋼以外の非鉄金属や、金属以外のセラミックスや樹脂までを含めるものである。その応用範囲は、重厚長大産業にとどまらず、環境やエネルギ、医療・バイオ産業など、今後の新しい成長産業分野での適用が期待されている。

 構造材料は一般的に固体材料からなり、化学構造や原子結合によって金属材料、セラミックス材料、高分子材料(樹脂)の3種類に大別される。ただし、近年は、新たな材料として複合材料や半導体材料、生体材料を加えることもある。

 本稿では、異種材料接合の基本ともいうべき異種金属同士の溶接の基礎と課題をあらためてみてみる。


〔以下、日経ものづくり2013年8月号に掲載〕

*1 ここでは、鋼種の異なる同種金属同士の接合も含めて異種材料接合とする。

中田一博(なかた・かずひろ)
大阪大学接合科学研究所 教授
1977年に大阪大学接合科学研究所助手となり、助教授を経て2002年から同大教授。2009年4月~2013年3月は同研究所所長。専門は、材料工学および溶接・接合工学、表面改質工学。