2013年5月、東京都内の首都高速道路を走行していた乗用車が突然減速し、すぐ後方のトラックに追突されるという事故が発生した。乗用車が急減速した原因は、いわゆる「自動ブレーキ機能」の誤動作だ。安全性を高めるはずの機能が、思わぬ事故を招いてしまう形となった。

 今回の事故で急減速した乗用車は、トヨタ自動車の「クラウン」(2012年12月発売)だ。この車両は、「プリクラッシュセーフティシステム」(PCS)と呼ばれる自動ブレーキ機能を備えていた。PCSはクラウンのメーカーオプションである「アドバンストパッケージ」に含まれる安全機能の1つで、前方車両や進路上の障害物に衝突しそうな場合、運転者の衝突回避行動を支援するものである(図1)。

時速10km未満に急減速

 クラウンのPCSは、2段階で動作する。まず、前方車両や障害物との距離が比較的近い、または自車両の走行速度が前方車両を大幅に上回っているといった理由で衝突の可能性が出てきた段階では、PCSの制御システムは警報ブザー(聴覚)とディスプレイ表示(視覚)によって運転者に衝突回避の行動を促す。

 前方車両や障害物との距離がさらに縮まって衝突の可能性が高まったら、制御システムは警報ブザーやディスプレイ表示による注意喚起を継続しつつ、ブレーキ制御による衝突回避支援を開始する。運転者がブレーキを操作している(ペダルを踏み込んでいる)場合は踏力を補助し(図1のA)、運転者がブレーキを操作していない(ブレーキペダルを踏み込んでいない)場合は自動で制動する(図1のBおよびC)。

 前方車両や障害物の検出には、周波数が76GHz帯のミリ波レーダを用いている。具体的には、自車両の前方に向けてミリ波を発信し、前方車両や障害物に当たって反射してきたミリ波を受信する。そして、発信から受信までの時間や周波数の変化量などに基づいて、前方車両や障害物との距離や自車両と前方車両の相対速度を算出している。

〔以下,日経ものづくり2013年8月号に掲載〕

図1●トヨタ自動車の「プリクラッシュセーフティシステム」(PCS)
まず警報ブザーやディスプレイ表示で危険回避を運転者に促し、次にブレーキを制御するという2段階で動作する。トヨタ自動車の資料を基に本誌が作成した。
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