「『つなげない』を『つなぐ』 最新接合技術の可能性」では、専門の技術者・研究者が、従来は難しいとされていた接合を実現する最新技術のメカニズムや既存技術の基礎と新たな応用展開の広がりなどについて、5回にわたって解説します。

鉄鋼材料への適用や突起物の成形にも

 前回は、摩擦撹拌接合(FSW:Friction StirWelding)の基礎として、同接合の原理や特徴、微細構造と温度との関係、欠陥の種類と適正接合条件の関係などについて紹介した。今回は、鉄鋼材料の接合や塑性流動の可視化といったFSWの最新技術を今後の展開を交えて解説する。

鉄鋼材料の摩擦撹拌接合

 前回も紹介したように、FSWは主にアルミニウム(Al)合金に対して適用されており、既に新幹線や自動車向けに幅広く使われている。一方、これまで鉄鋼材料で実用化された例は、ごくわずかで、これからの用途と期待されている。

 鉄鋼材料においてFSWの実用化が遅れている最大の理由はツールの耐久性にある。加えて、Al合金とは異なり、鉄鋼材料は従来の溶融溶接で十分接合可能であることも大きな理由の1つである。

 ただし、FSWならではの特性を生かしつつ鉄鋼材料への適用も研究が進んでいる。英The WeldingInstitute社の基本特許が切れる2015年をメドに、そうした技術の開発が爆発的に進む可能性がある*1

変態点温度以下で接合

 FSWでなければ不可能な接合の代表格が、A1変態点温度(A1点、723℃)以下での接合1~3)だろう。自動車用鋼板などで炭素の含有率がおよそ0.15質量%以下の低炭素鋼を用いる理由の1つは、炭素含有率が高い鋼を溶融溶接で接合できないからだ。

 一般に炭素鋼の組織は、低温では安定なフェライトだが、A1点以上になるとオーステナイトに変態する。炭素の含有率が0.15質量%以上の鋼(高炭素鋼)を高温にさらしてオーステナイト状態にしてから冷やすと、硬くてもろいマルテンサイト相が生成する。これによって割れが発生するため接合できないのだ。

 
〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

*1  FSW技術の基本特許は、基本技術を開発した英国の研究機関TheWelding Institute(TWI)社が保有しているが、出願から20年を迎える2015年に権利期間が切れる。現在、他社が使用する場合はライセンス料を払う必要がある。

参考文献:1) H.Fujii, L.Cui, N.Tsuji, M.Maeda, K.Nakata and K.Nogi: Mater.Sci. Eng. A, 429(2006), 50.
参考文献:2) L.Cui, H.Fujii, N.Tsuji and K.Nogi: Scripta Mater., 56(2007), 637.
参考文献:3) Y.D.Chung, H. Fujii, R.Ueji and N.Tsuji,Scripta Mater., 63(2010)223.

藤井英俊(ふじい・ひでとし)
大阪大学接合科学研究所 教授
1993年早稲田大学博士後期課程修了。ケンブリッジ大学リサーチアソシエイト、大阪大学接合科学研究所助手、助教授を経て、2010年大阪大学接合科学研究所教授。専門は接合工学。