いまやメカ設計者もエレクトロニクスと無縁ではありません。「メカ設計者も知っておきたい エレ設計のABC ~オーツ君の成長記~」では、架空の設計現場を舞台に、製品開発をスムーズに進めるためのエレクトロニクス設計の基礎を解説します。

エレとメカで長さが変わる?

 高周波(RF)設計に詳しいキイチ氏に、交流と直流のつながり、RFの世界での特性の変化などを教わったオーツ氏。直流と交流の関係や直流回路とRF回路の違いについては理解したが、位相については積み残したままだった。そこで、再びキイチ氏の元を訪れた。

 キイチ(以下、K)氏:「この間は、直流が実は極めて波長の長い交流だと考えられると説明したよね」

 オーツ(以下、O)氏:「直流と交流は実は見方を変えるとつながっているという話ですね」

 K氏:「そう。ただ、これまでは1 つの波がどのような挙動を示すかを見てきたよね。今度は2つの波で、しかもそれらがズレた場合について考えてみよう」

 O氏:「昔習いましたね。複数の波のズレ方によって波の振幅が大きくなったり、小さくなったりするんですよね」

 K氏:「その通り。交流の世界では波の波形がどのくらい重なっているのか、あるいはずれているのかによって、あらゆるところに影響が出てくる。波のズレがとても重要な要素なんだよ。特にタブレットや薄型ノートパソコンは、WiFi*1やWiMAX*2などさまざまな電波を送受信するよね。仮に同じ製品から送信電波aと送信電波bとが同じ周期で発信されたとすると、どうなるかな」

 O氏:「周期が同じだから、振幅が2倍ですか」

 K氏:「そうとは限らないんだ。もちろん振幅が2倍になることもあるが、a、b2つの電波の発信タイミングによっては打ち消し合いもする。これら2つの波の波形のズレが『位相』だ。我々RF設計者は、この位相という考え方を設計に取り込んでいるんだよ」

 図1において、実線を基準となる波とする。波の進行方向を右向きとして、線上のA点を基準点(0°)とし、A点からB点に向かって波形の1周期がちょうど-360°になるように目盛をふる*3。この場合、B点はA点から見て過去に通ってきた点ということになる。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●位相の考え方
図1●位相の考え方
基準となる波に対してある波がどれだけズレているかを示すのが位相。上図の場合、実線の波を基準とすると、破線の波は90°遅れている。

*1 WiFi 国際規格IEEE802.11に基づく無線LANの標準規格。

*2 WiMax 国際規格IEEE802.16などに基づく無線通信技術の標準規格。

*3 通常、位相は0~360°で表記するが、ここでは分かりやすくするためマイナス表記とした。

前田篤志(まえだ・あつし)
O2 Lab. リサーチフェロー
米国で高周波(RF)技術を教える傍ら、マネジメント要素を盛り込んだ独自の「RF Management」論を構築。現在は特許工学などの講義を基に、現象論に立脚したエレクトロニクス教育の啓蒙に努める。

【会社紹介】
O2 Lab.は、設計開発領域におけるコンサルティングを手掛けるO2の研究開発部門。ビジネスシーズを新規事業にまで育て上げる顧客専属の研究開発機関である。URLはhttp://www.o2-inc.com/lab/