クルマの付加価値を高めるさまざまな技術が相次いで登場している。「環境(軽量化や燃費改善など)」「コスト」「電動化」が3大テーマ。今回は、それをパワートレイン編、車体編、カーエレクトロニクス編に分け、黒山の人だかりができた注目技術20に絞って写真中心で紹介する。(人くる取材班)

パワートレイン編:「力強くなめらかな加速」を実現する
ホンダの新型ハイブリッド

 どっしり構えるその出で立ちを捉えようと、デジタルカメラやスマートフォンを手に多くの来場者が群がった。ホンダが展示した、2013年6月21日発売の「アコード ハイブリッド(HEV)」向けHEVシステム「SPORT HYBRID i-MMD」(写真はカットモデル)である。スポーツの名が付くのは、「力強くしなやかな加速を実感できる」(同社)から。この感覚を実現するポイントの1つが、エンジン/モータ/発電機をつなげる同システム特有の機構だ。

 例えば、トヨタの「プリウス」では、先の3部品は遊星歯車を介して駆動軸とつながる。一方、アコードのHEVでは、EV/ハイブリッド走行時はエンジン(発電の目的で必要に応じて稼働)→発電機→モータ→駆動軸のルートで動力を伝えるが、エンジン走行時はクラッチをつないでエンジンと駆動軸を直結させることも可能だ。常に動力源と駆動軸が直接つながるため応答性が良いとする。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図1●
走行用と発電用のモータを搭載した2モータ式。排気量2.0Lの直列4気筒エンジン「DOHC i- VTEC」を積む。システムの最高出力は146kW(モータの最大出力は124kW)
図1●
「アコード ハイブリッド(HEV)」はホンダにとって初めての中型クラスのHEV。同じシステムを積んだ「アコード プラグイン ハイブリッド」も2013年6月21日に法人など向けに発売した。

車体編:最強ハイテンを多用した車体骨格
日産が今夏発売のクルマに投入

 日産自動車は、2013年夏に北米で発売する「Infiniti Q50」の車体骨格を初公開した。注目を集めたのは、引っ張り強さが1.2GPa級のハイテンを多用している点。冷間プレスで成形可能な、車体構造部材用ハイテンとしては世界最高の引っ張り強さだ。その結果、通常のハイテン材と同等の車体性能を保ちながら、1台当たり約15kg軽量できるという。

 1.2GPa級のハイテンの適用箇所は、センター・ピラー・レインフォース、フロント・ルーフ・レールなど。伸びやすくしてプレス加工性を高めたことが最大の特徴だ。加えて、シミュレーションによってプレス加工の際の変形を正確に予測し、スプリングバックなどを抑えて寸法精度を向上させた。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図
赤色の部分が1.2GPa級のハイテンの適用箇所。オレンジの部分は1.35GPa級ハイテンだが、寸法精度を出しやすい熱間プレスで加工している。

カーエレクトロニクス編:印刷可能なフレキシブルタイプの
有機EL照明が登場

 住友化学は、常温常圧でパターン印刷が可能なフレキシブルタイプの高分子有機EL照明を初めて出展した。今回、フレキシブル基板上に形成した数種類の高分子有機EL照明を光らせた。住友化学によれば、車内は曲面が多いため、フレキシブルな特徴が生きるとする。具体的には、天井に貼る照明、足元のフットランプなどの用途を狙っている。展示品で使用したフレキシブル基板の材料は未公表だが、他社製の材料を使っている。展示品では、バリアフィルムについても他社製のものを採用しているが、「将来的には自社のバリアフィルム材料を使っていきたい」(同社)とする。

 フレキシブル性と並ぶ大きな特徴が、インクジェット技術などの印刷技術で造れること。有機EL照明は国内外で開発が活発に進められているが、「他社は低分子タイプの有機ELを採用しているところが多い。低分子タイプの場合、大掛かりな設備が必要な真空蒸着などで造ることが多く、印刷との相性が良くない。一方、我々の高分子タイプは溶媒に溶かして大気圧下での印刷技術の適用が容易」(同社)とする。高分子タイプは、大気中でのプロセスが可能。低分子タイプは真空下で加熱して材料を飛ばす方法を採る。住友化学は、実用化時には、インクジェット技術やロールツーロール技術などへの適用を想定している。

〔以下、日経ものづくり2013年7月号に掲載〕

図
曲げられる有機EL照明
高分子有機ELと低分子有機ELの比較
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