2013年6月号からは「関伸一の強い工場探訪記」をお届けします。日本にあるさまざまな業種の工場を、工場長の経験もある筆者の関氏が訪問し、表面的な数字だけでは分からない優れた工場の強みや特徴など現場の生の姿をお伝えします。

デジタル技術でフルモールド鋳造の付加価値向上

「日本の製造業の強さは現場にある」と言われるが、これは市場や拠点がグローバル化しても変わることはない。筆者は約28年間、製造業の工場に身を置き、そのことを肌で感じてきた。当時からさまざまな業種の工場との交流はあったが、コンサルタントとしての活動を開始したこの3年間でさらに多くの工場を知ることができ、「日本には優れた工場がたくさんある」という思いを強くした。本連載では、これら優れた工場の生の姿を紹介していきたい。

 記念すべき第1回の訪問先は、他社にないコア技術を持つ鋳造メーカーの木村鋳造所御前崎工場である(図1)*1。同工場を選んだのは、ものづくりに対する考え方や3D-CAD/CAMおよび数値シミュレーションの活用、人材育成などの点で秀でているからだ。同工場の製造プロセスに沿って、その強さを探っていこう。

発泡スチロールを鋳物に

 木村鋳造所御前崎工場のコア技術は、発泡ポリスチレン(以下、発砲スチロール)の模型を使ったフルモールド鋳造法(消失模型鋳造法)である。木型の代わりに、加工しやすい発泡スチロールを製品(鋳物)の形にした模型を作製し、そのまま砂型内に埋め込む。ここに溶湯を注ぎ込むと、溶湯が発泡スチロール模型を溶かし(燃やし)ながら模型のスペースを埋めていって製品の形になる。

 模型として木型を使う鋳造法と比べて、フルモールド鋳造法は木型を保管するためのスペースが不要で、中子を作製する工数も削減できる。抜き勾配に配慮する必要もなく、パーティングラインにバリが発生する心配もないなど、フルモールド鋳造法には利点が多い。
〔以下、日経ものづくり2013年6月号に掲載〕

図1●木村鋳造所の基本データ
図1●木村鋳造所の基本データ

*1 筆者が講師を担当した、岐阜県各務原商工会議所主催「中部ものづくり指導者養成技能伝承塾」のカリキュラムの1つ「ITを活用した現場視察」で同工場を訪ねた。

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経てローランド ディー.ジー.に入社。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。28年間の製造業勤務を経て、3年前に「関ものづくり研究所」を設立。静岡県浜松市在住の55才。