2013年第1四半期(1~3月)に、韓国Samsung Electronics社は世界のスマートフォン市場において3分の1のシェアを確保した。もちろん世界第1位であり、現在、同社は3億~4億台ものスマートフォンを生産していることになる。「同じ機種を大量生産し、安く販売してシェアを稼いでいる」などと考える読者も多いかもしれない。しかし、実際には同社は同じものばかりを造っているのではなく、デザインや機能を多種多様に変えて毎月10以上の新モデルを投入し、1機種当たりの生産量で見れば100万台に満たないほど多品種の製品を手掛けている。
筆者は、これこそがグローバリゼーション時代を勝ち抜くために、Samsung Electronics社が採った対応だと思っている。言い換えれば、同社は世界各地に向けて、あるいは各地のユーザーニーズの変化に対応して、きめ細かく多種多様な製品を供給することで成功してきた。
どのくらいのきめ細かさが必要か。例えば、インドと一口に言っても、北部と中央部と南部では言葉も文化も違う。北部では決して肉を口にしないが、中央部や南部に行けば豚肉も牛肉も食べているというように、食べ物さえ異なる。インド1国だけでも世界の縮図のようなところがある。
こうした現実を受け入れ、それぞれの地域の好みに合わせて設計を変えるべき、というのがSamsungElectronics社の認識だ。
梅を求めるユーザーには梅を
日本ではなかなか見られないから分かりにくいかもしれないが、Samsung Electronics社の製品は世界各地のニーズをくみ取った設計の結果として、デザインや操作性に非常に優れている。本連載第1回で紹介した欧州向けのワイングラス型テレビもその1例だ。一方で新興国向けのテレビやハードディスク・レコーダーは、余分な機能がなくリモコンもシンプル。しかもハードディスク・レコーダーとテレビ用が共通で、別々に2つ使う必要がない。
〔以下、日経ものづくり2013年6月号に掲載〕
東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター