グローバルセンスは、視野を世界へと広げるために必要なさまざまなテーマを、全ての技術者を対象にして紹介するコラムです。2013年4月号からは、韓国Samsung Electronics社の躍進の要因を明らかにし、それを基に日本のものづくりを考察する元同社常務の吉川良三氏の解説を掲載します。

 2013年第1四半期(1~3月)に、韓国Samsung Electronics社は世界のスマートフォン市場において3分の1のシェアを確保した。もちろん世界第1位であり、現在、同社は3億~4億台ものスマートフォンを生産していることになる。「同じ機種を大量生産し、安く販売してシェアを稼いでいる」などと考える読者も多いかもしれない。しかし、実際には同社は同じものばかりを造っているのではなく、デザインや機能を多種多様に変えて毎月10以上の新モデルを投入し、1機種当たりの生産量で見れば100万台に満たないほど多品種の製品を手掛けている。

 筆者は、これこそがグローバリゼーション時代を勝ち抜くために、Samsung Electronics社が採った対応だと思っている。言い換えれば、同社は世界各地に向けて、あるいは各地のユーザーニーズの変化に対応して、きめ細かく多種多様な製品を供給することで成功してきた。

 どのくらいのきめ細かさが必要か。例えば、インドと一口に言っても、北部と中央部と南部では言葉も文化も違う。北部では決して肉を口にしないが、中央部や南部に行けば豚肉も牛肉も食べているというように、食べ物さえ異なる。インド1国だけでも世界の縮図のようなところがある。

 こうした現実を受け入れ、それぞれの地域の好みに合わせて設計を変えるべき、というのがSamsungElectronics社の認識だ。

梅を求めるユーザーには梅を

 日本ではなかなか見られないから分かりにくいかもしれないが、Samsung Electronics社の製品は世界各地のニーズをくみ取った設計の結果として、デザインや操作性に非常に優れている。本連載第1回で紹介した欧州向けのワイングラス型テレビもその1例だ。一方で新興国向けのテレビやハードディスク・レコーダーは、余分な機能がなくリモコンもシンプル。しかもハードディスク・レコーダーとテレビ用が共通で、別々に2つ使う必要がない。
〔以下、日経ものづくり2013年6月号に掲載〕

吉川良三(よしかわ・りょうぞう)
東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター
1964年日立製作所に入社後、ソフトウエア開発に従事。1989年に日本鋼管(現JFEホールディングス)エレクトロニクス本部開発部長として次世代CAD/CAMを開発。1994年から韓国SamsungElectronics社常務としてCAD/CAMを中心とした開発革新業務を推進。帰国後、2004年より日本のものづくりの方向性について研究。著書に「サムスンの決定はなぜ世界一速いのか」「勝つための経営」(共著)などがある。