原子力規制委員会が原子力発電所の新安全基準案の策定を進めており、地震や津波などの自然災害を想定した原発の安全対策は、強化される見通しとなった。
しかし、悪意ある第三者が攻撃してきた場合はどうだろうか。本誌2013年3月号の新安全基準案の検証に引き続き、原子力施設に造詣の深い桜井淳氏が、原発のテロ対策などについて解説する(本誌)。

 原子力開発機関は、国家が管理しているというだけで特別視され、テロ攻撃のターゲットとなる。まして核兵器技術に結びつく高濃縮ウランやプルトニウムは、テロリストの格好の攻撃対象といえる。原子力開発機関に限らない。事故の社会的影響力を考えれば、核燃料サイクル全般がテロ攻撃の対象であり、原子力発電所(原発)も標的となり得る。

 実際、フランスの高速増殖炉実証炉「スーパーフェニックス」は、建設中の1982年に、原子力反対派のロケット弾攻撃を受けたことがある*1

 このように、テロの潜在リスクは常にある。福島第一原発事故を経験した我が国だからこそ、大災害に至らぬよう腰を据えてテロ対策に取り組まなければならない。本稿では、原発の構造や技術と併せて原発を管理する社会制度を分析し、原発が抱えている技術的・社会的な脆弱性をつまびらかにするとともに、克服の方法を検証していく。

 1977年1月、西側先進国の研究用・商業用の原子力施設のテロ対策が一変した。当時は、テロ対策とは言わず、核物質防護措置と呼んだが、実質的には同じである。

 米カーター政権は、プルトニウムの商業利用に伴う社会的リスクを懸念し、世界的な核不拡散政策を打ち出した。研究用のプルトニウムや高濃縮ウランを供給していた西側先進国に対し、[1]核物質防護措置の徹底、[2]熱出力1MW以上の原子炉における兵器級高濃縮度燃料(93wt%)の暫定的な中濃縮度化(40wt%)を経た低濃縮度化(20wt%)、を義務付けたのである。

 この政策に対応して、当時の日本の原子力研究所(原研、現原子力研究開発機構)は、炉心変更に伴う安全審査の準備などに多くの時間を費やし、セキュリティーも強化した*2

 例えば、原子炉施設やプルトニウム施設への入退室に職員ごとのIDカードと暗証番号による管理を導入した他、外部からの侵入防止と早期発見のため、研究所全体を上部に有刺鉄線が付いた金網フェンスで覆い、侵入検出器を設置した1~3)。研究所内の原子炉施設とプルトニウム施設も侵入検知機能を備えた金網フェンスで覆い、検問所を設けた。施設内外には赤外線検出器も設置した。各施設やフェンスからの信号は正門守衛所に送信され、異常信号が検出されれば担当部署に連絡が入り、即刻点検しなければならない体制になった。

 原子炉施設の燃料交換作業に関しては、国際原子力機関(IAEA)が原子炉建屋内の高い位置に設置した、半年間連続撮影可能な監視カメラによって作業の一部始終が撮影されるようになった。

 以上のような対策は、原研のみならず、旧動力炉核燃料開発事業団(動燃)や商業用原発などでも実施された。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕

*1:ロケット弾は、5発中4発が原子炉建屋に命中し、建屋が損傷した。

*2:筆者は、当時、原研の材料試験炉部計画課に在籍しており、材料試験炉の炉心核計算と臨界実験装置を利用した炉物理実験に携わっていた。