日経テクノロジーオンライン
雑誌 2013年4月号 特集

【特別寄稿】汎用ID「ucode」で製造業が変わる

ネットワーク型ものづくりの連携基盤

坂村 健●東京大学大学院 情報学環 教授
2013/03/27 17:05
 

 ネットワーク技術が進化し、スマートフォンやタブレット端末といった新たな情報機器が登場したことで、あらゆる物がインターネット経由でつながる世界が到来しようとしている。製造業も、ネットワークへの接続を前提に製品を開発しなければならない時代になった。その際に物とネットワークの結節点としての役割を果たすのが、坂村健氏の提唱する汎用ID「ucode」である。
 今後、自社で全てを開発するのではなく、既存の技術やサービスを取り込む戦略が重要になる。しかし、信頼性をどう担保するかという観点から外部との連携に手をこまぬいている企業が少なくない。汎用IDであるucodeを使えば、物や企業活動のトレーサビリティーを実現できるので、そうした課題も解決される。そこで坂村氏に、[1]製造業が置かれた状況、[2]製造業の今後と課題、[3]ucodeによる課題解決、について解説してもらった。(本誌)

 本稿で紹介する汎用ID「ucode」は、物や場所を識別するためのコードである。媒体としてバーコードやRFID(Radio FrequencyIdentifi cation)を用いる点は既存のID体系と同じだが、大きく異なる点がある。それは、媒体には識別用のIDしか格納せず、それ以外の関連情報(物や場所の名前など)はネットワーク上のサーバなどに格納するという運用によって、特定の目的に縛られない汎用性を実現していることだ。ucodeは、ネットワーク社会を前提とした汎用ID体系なのである。

 筆者は、こうしたucodeの仕組みが、今後広がるネットワーク型ものづくりの連携基盤として役立つと考えている。そこで、まずはネットワーク化が進む中で製造業が置かれた状況を押さえた上で、製造業が直面する課題にucodeがどう役立つのかを説明しよう。

[1]製造業が置かれた状況:ネットワーク接続を前提に開発

 ものづくりの世界は、自分(自社)で全てを手掛ける時代から、他者(他社)との協力・協調が不可欠な時代になっている。コアとなる技術は自社で開発するものの、それ以外の技術はマッシュアップ*1的な手法やオープンシステムを積極的に取り入れる機動性の高い戦略が重要になっている。

 筆者が進めている「TRONプロジェクト」は、そうした戦略の基にOSなどを開発し、そのソースコードを無償で公開するオープン・アーキテクチャーの先駆的な存在である。同プロジェクトの成果であるリアルタイムOSの「ITRON」や「T-Kernel」は、これまで多くの製品に使われてきたが、近年はシェアがさらに上昇している(図1)。

 高度なユーザー・インタフェース(UI)が必要なスマートフォンでも、「Linux」などのオープンなOSを使うのが一般的だ。OSの上位のミドルウエア層は「GNU」やT-Kernel向けの「T2EX」といったオープンなソフトウエアで構築し、より上位のアプリケーション層には「Qt」や「Android」など既製のプラットフォームを利用することが多い。

 こうした動きは、ソフトウエアに限った話ではない。回路基板を自社で開発せず、「Raspberry Pi」のようなオープンソース・ハードウエア*2を開発の過程で活用したり、量産品に搭載したりする例も出てきた。
〔以下、日経ものづくり2013年4月号に掲載〕

図1●組み込みシステム用リアルタイムOSのAPI利用度
図1●組み込みシステム用リアルタイムOSのAPI利用度
組み込みシステム関連の展示会「Embedded Technology 2012」(2012年11月14~16日、パシフィコ横浜)の来場者を対象として、利用したことのあるリアルタイムOSのAPI(Application Programming Interface)を尋ね、そのうち最も多く利用したという回答の割合を取った。ITRONとT-KernelのAPIの合計が6割以上を占めている。調査はT-Engineフォーラムが実施したもので、有効回答数は165。

*1 マッシュアップ:Web サービス業界において既存サービスのAPI(Application Programming Interface)を組み合わせて新たなサービスを生み出すこと。もともとは複数の音源を組み合わせるという音楽業界の用語である

*2 オープンソース・ハードウエア:「自由な再配布が可能」や「誰でもソースの入手が可能」などオープンソース・ソフトウエアと同じ条件を満たした形態で、設計図など作製に必要な全情報が公開されているハードウエアのこと。

坂村 健(さかむら・けん)
1951年東京生まれ。東京大学大学院情報学環教授、ユビキタス情報社会基盤研究センター長、工学博士。1984年からオープンなリアルタイムOS「TRON」を構築。携帯電話機、デジタルカメラ、ファクス、自動車のエンジン制御システムなどさまざまな分野で使われている。2003年紫綬褒章。2006年日本学士院賞。『ユビキタスとは何か』(岩波書店)、『不完全な時代 科学と感情の間で』(角川書店)など著書多数。

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