欧州ジャーナリストの視点
フリーランス・ジャーナリスト Ian Adcock氏
英国在住。『What Car』『Autocar』『Motor』などの自動車専門誌の編集者を経て、1980年からフリーに。自動車技術専門誌の『European Automotive Design』誌に寄稿するなど技術にも詳しい。

 この2月、スペインのへレスサーキットで、レーシングドライバーのLewisHamiltonとNico Rosbergは、Mercedes-Benzの最新のF1マシンである「W04」の耐久性能の低さ、ブレーキの故障に悩まされていた。それはまるで、ドイツDaimler社の現在の状態を象徴しているかのようだった。

 ドイツAudi社や同BMW社との厳しい競合により、同国第3位の高級車ブランドであるDaimler社のMercedes-Benzは、そのシェアを低下させてきた。その理由の一つは、BMW社の「X1」や「X3」、Audi社の「Q3」や「Q5」、そして英Land Rover社の成功モデル「Evoque」のような小型SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)を持たないことである。

 Mercedes-Benzブランドは、2012年に記録的な販売台数を記録した。にもかかわらず、依然としてBMW社やAudi社の販売台数を下回っている。強い小型SUV需要に応えられないのに加えて、利益率の高い高級セダンが、モデル末期を迎えていることも理由として挙げられるだろう。

 大幅な部分改良を受けた「Eクラス」の発売は4月、高級セダンの「Sクラス」の全面改良は今年の後半であり、Daimler社は売上高利益率10 %という目標を延期した。同社は同時に、2014年末までに20億ユーロ(1ユーロ=125円換算で2500億円)のコスト削減をすることも約束した。

以下、『日経Automotive Technology』2013年5月号に掲載