3Dプリンタに対する社会の認知度が急激に高まってきた。市場は今まさに花開き、ものづくりの世界に大変革を起こそうとしている。この変化は、製造業にとって脅威となるのか追い風となるのか…。その未来を見極める。(中山 力)

第1部:社会へのインパクト

製造業以外に急拡大
誰もが企画・設計、作り手に

 3Dプリンタの普及によって、ものづくりの世界が大きく変わろうとしている。これまでの常識では考えられなかった用途で、実際の製品やサービスが動き出しているのだ。

 例えば、2013年1月にはフィンランドNokia社が、自社のスマートフォンのバックカバーをユーザーが3Dプリンタで造形できるよう、3Dデータを公開した。メーカーが自社製品に対応した3Dデータを公開し、製造をユーザーに委ねるという、画期的な取り組みだ。

 CAD/CAMベンダーのファソテック(本社千葉市)と産婦人科クリニックの広尾レディースは共同で、お腹の中にいる赤ちゃんの姿を3Dプリンタで造形して提供するサービスを開始。さらに、2013年2月に東京都内で開催されたバレンタインデー向けのワークショップでは、一般の女性が自分の顔の形を模したチョコレートを作る際の、原型を作製するのに3Dプリンタが活用された。

 こうした事例は一体、何を意味するのだろうか。それは、モノを買うだけだったユーザーがモノを作る担い手になったり、これまで製造業が提供してこなかった新しい製品を企画・設計したりする。さらに、ユーザーごとに異なる製品を提供する究極のカスタマイズ生産が可能になる。このように今、巷では3Dプリンタの普及に伴い、ユーザーを巻き込んでの大変革が引き起こされているのだ。
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕

写真で見る:10の最新活用事例



図1●スマートフォンのカバーを自分好みで作る
スマートフォンのカバーを自分好みで作る
 フィンランドNokia社は2013年1月、Windows Phone「Lumia 820」の背面カバーの3Dデータを公開した。その名も「3D-printing Development Kit」。ユーザーはこのデータをそのまま使って好きな色で3Dプリントしてもよいし、カスタマイズを加えて造形することも可能だ。アセンブリ状態の3Dデータ(青いモデル)と、構成する6部品それぞれの3Dデータ(グレーのモデル)を用意する。同製品はもともと、カバーを付け替えられるようなコンセプトのもので、例えば米国では25ドルでカバーが販売されている。


図2●お腹の中の赤ちゃんの成長記録を残す
お腹の中の赤ちゃんの成長記録を残す
 ファソテックのメディカルエンジニアリングセンターは2012年7月、産婦人科クリニックの広尾レディース(東京・恵比寿)と提携し「天使のかたち」と呼ぶ3Dプリント・サービスを開始した。妊婦の腹部をMRIで撮影し、母体を透明樹脂で、胎児を白色樹脂で造形したり(左の写真)、広尾レディースでの診断時の3Dエコー(超音波)画像を使って胎児の外形の一部を造形したりする(右の写真)。前者が約10万円、後者が約5万円。(写真:ファソテック メディカルエンジニアリングセンター)


図3●自分の顔の形をした、世界で唯一のバレンタインチョコを作ろう
自分の顔の形をした、世界で唯一のバレンタインチョコを作ろう
 2013年2月2日と9日に開催されたワークショップ「ハイスペックすぎる自分型チョコレートを贈ろうの会」〔東京・渋谷のものづくりカフェ「FabCafe」とケイズデザインラボ(本社東京)が主催〕では、参加者の顔をスキャンして得た3Dデータから3Dプリンタで原型を作製(左の写真)。その形状をシリコーン型に転写し、チョコレートを流し込んで固め、自分の顔の形をしたチョコレートを作った(右の写真)。参加した20人弱の女性は、3Dプリンタとはほとんど縁のなかった一般の人たち。3Dプリンタを活用することで、従来は考えられなかったようなサービスを一般の人が体験できるようになる。このワークショップには、著名なチョコレート職人も注目したという。食品加工の領域でも、3Dプリンタが活躍する場面は増えそうだ。
〔以下、日経ものづくり2013年3月号に掲載〕