台湾企業ウォッチャーの視点
台北科技市場研究(TMR)代表 大槻智洋氏
ベンチャーキャピタル、「日経エレクトロニクス」記者を経て2010年に台湾に移住。戦略コンサルティング会社などに調査サービスを提供する傍ら、各種媒体に寄稿している。

 「ビジネスモデル」という言葉の周辺には、ビジネスパーソンにとって空虚でどうでもいい単語がゴマンとある。垂直統合、水平分業、すり合わせ(インテグラル)、組み合わせ(モジュラー)など、である。その空虚さは、ちょっと例を考えてみれば明らかだ。
 「部品Aの最初の顧客B社には、付帯サービスCを提供して早期採用を促す。後に続く顧客D社には、付帯サービスCを簡素化して、より安く部品Aを提供する。浮いた社内人員で次世代品を開発する」
 こうした事業活動のどこに、水平分業やすり合わせといった単語の入り込む余地があるだろうか。そんなあいまいな言葉は、実務では使いものにならない。ビジネスパーソンにとってビジネスモデルと「業務フロー」はイコールである。それにまつわる単語は納期、分担、入金予定などで、あいまいさの入る余地がない。
 それなのに、シャープをはじめとした電機メーカーの苦境を説明しようと、メディアの多くは「垂直統合の弊害」といった、あいまいな単語を多用する。しかし、シャープの苦境は、業務フローのまずさ、いや業務フロー以前の問題が招いたものだ。業界の人間なら誰もが分かっていた課題を、シャープ経営陣は放置していた。怠慢の典型例を二つ挙げよう。

以下、『日経Automotive Technology』2013年3月号に掲載