R&Dコースは、2013年1―4月号では「構造物の良否が直観的に分かる 力の流れを可視化する『U*』」をお届けします。構造物に掛かる力がどこを伝わるのかを明らかにする最新の構造計算手法について解説します。構造物の構想設計段階で、より合理的に負荷を支える構造を決定するのに役立つ方法です。

良い構造は力の伝達経路が明確

 「力の流れ」というのは、力を流体になぞらえた表現である。厳密には力が伝わる、あるいは荷重が伝達される、と言うべきかもしれないが、構造物の開発において、「力の流れ」や「力の伝達」といった表現はしばしば用いられる。例えば、「力の伝達を合理的にすっきりと行うことが、無駄な重量を省き、簡潔で合理的な軽量構造を得る根本となる」などと言われている。これは天才設計者であり、旧日本海軍航空技術廠しょうにおいて軍用機「彗星」あるいは「銀河」の主任設計者を務めた山名正夫博士の著書からの引用である。

 力の流れ、力の伝達という表現の意味する内容は個人個人にとっては明瞭と思われるが、実は具体的な共通の定義はなされていない。筆者は、力の伝達状況を客観的に明示するために、構造物に負荷がかかったときに生じるひずみエネルギを基にした指標「U*(Ustar、ユースター)」2、3)を提案、検討してきた。
〔以下、日経ものづくり2013年1月号に掲載〕

図1●数値解析による荷重伝達のU<sup>*</sup>による表現
図1●数値解析による荷重伝達のU*による表現
力の流れを、指標「U*」(本連載の次回以降で説明予定)で客観的に計算できる。乗用車のリアシート部の構造をトランクルーム側から見た様子。色はU*の値を示し、矢印部分における色の急変によって、薄板構造における屈曲部の荷重伝達の低下が分かる。

高橋 邦弘(たかはし・くにひろ)
慶應義塾大 学名誉教授。
 1967年慶應義塾大学工学部卒業、1973年工学博士(慶應義塾大学)。日産自動車勤務を経て1975年より慶應義塾大学。2010年名誉教授。専門は自動車車体の構造解析、および極性物質の連続体理論。指標U*の開発は本文中にも記載のある、工学博士の山名正夫氏による指導が発端。