「熟練者のノウハウを引き出す対話術」は、ベテラン技術者が持つ「知恵」を引き出し、体系的に整理して共有可能にするまでの方法論を解説するコラムです。従来比1/24のリードタイム短縮などで知られたインクスが、業務変革のソリューション事業で経験したことを踏まえて解説します。

 知恵(知識を活用できる能力)を支えるためのノウハウを、対話を通して引き出し、まとめていく場面へと話を進めたい。今回は、ある設計作業を対象とし、その中での検討項目を洗い出し、さらに構造を伴った形で可視化するところまでを、具体的な対話例を通して説明する(図)。

 ここで紹介する対話は、達人に業務について話を聞きながら、検討項目を洗い出し、構造化していく例である。おおむね中工程の大きさの業務から洗い出しを始め、ブレークダウンしていく。中工程とは、リソース(人、道具、設備)から見てひとつながりで実施できるところ(例えば、担当者が別の人になる)まで、あるいは中間成果物ができるところまで、といった程度の大きさとなる。

 洗い出した検討項目は、相互の関係に着目して整理する。検討項目間の関係が把握できれば、それぞれの項目が「他の検討項目の結果に依存する検討項目か」「他の検討項目の一部か」「全く独立して検討できる内容か」といったことが明らかになる。これを明確にすることによって、対象としている業務の論理的な構造が浮かび上がってくる。

〔以下、日経ものづくり2012年12月号に掲載〕

図●ノウハウの可視化
図●ノウハウの可視化
現状のやり方を達人から引き出した上で、構造を当てはめ(構造化)、目に見える形にする(可視化)。

小林紀知(こばやし・のりとも)
インクス 事業企画室 ウィズダム・エンジニアリング・リーダー
インクス 事業企画室/ウィズダム・エンジニアリング・リーダー。2002年インクス入社。ソリューション事業部にて多様な業界の業務変革プロジェクトを手掛けた後、変革手法を体系化して「ウィズダム・エンジニアリング」へとまとめ上げた。価値創造へと向かう知識と知恵の在り方、組織ダイナミクスについて探究している。