東芝がジスプロシウム(Dy)を全く使用しないモータ用の高性能磁石を開発したと2012年8月に発表した。市場を驚かせたのは、その磁石がサマリウム・コバルト(Sm-Co)磁石だったことだ。

 1980年代前半、磁力でも価格の安さでもSm-Co磁石を凌駕したネオジム(Nd)・鉄(Fe)・ボロン(B)系磁石(以下、ネオジム磁石)が開発されて以来、強力磁石の主流はネオジム磁石に変わった。今回の復活劇は、この流れに逆行する。

 Sm-Co磁石を再び表舞台に登場させたキーワードは「Dy」と「中国」だ。磁石の強さを表す残留磁束密度が高いことが魅力のネオジム磁石には深刻な弱点がある。耐熱性が低く、高温環境では残留磁束密度が低下してしまうことだ。ネオジム磁石の発明者である佐川眞人氏自身、「(開発当初は)耐熱性が50℃前後」だったと振り返っている。

 この問題を解決したのがレアアースのDyだ。Dyを添加すると、添加量に合わせて、耐熱性を示す保磁力を高められるからだ。例えば、170~200℃以上の耐熱性が必要なハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の駆動用モータに使う磁石には、6~10質量%のDyが添加されている。HEVやEVほど高温にはならないエアコン圧縮機のモータ向けでも4~6質量%、HDD(ハードディスク装置)の磁気ヘッドのアクチュエータ向けには1~2質量%が使われている(図)。

 Dyの添加による耐熱性向上がなかったら、ネオジム磁石は普及しなかった。ところが、2010年に突如、Dyの調達に大きな不安が広がった。

〔以下、日経ものづくり2012年12月号に掲載〕

図●ネオジム磁石の性能とDy添加量の関係
図●ネオジム磁石の性能とDy添加量の関係
Dyの添加量を増やすと保磁力(耐熱性)が向上するが、磁石の強さを示す残留磁束密度は低下する。