第1部<日本のハードウエア・スタートアップ>
大企業を飛び出し
本当に作りたい製品を作る

日本でもハードウエア・スタートアップ企業が増えてきた。その多くが、大手メーカーやIT企業を飛び出した技術者が創業した企業である。共通しているのは「本当に作りたい製品を作っている」ことだ。

ここ数年で多くのハードウエア・スタートアップが登場

 ハードウエアを開発・生産するための支援環境が、個人や小規模事業者向けに整備されてきたことで、エレクトロニクス機器を手掛けるスタートアップ企業が世界的に増加している。日本でも最近、ハードウエアで起業する実例が増えてきた。

 海外のスタートアップ企業では、ソフトウエア、ハードウエアを問わず、大企業での勤務経験がない若い創業者が多い。これに対し、日本のハードウエア・スタートアップは、大手メーカー出身の創業者が目立つ。

 特徴的な卓上ライトを販売しているBsizeは、富士フイルムで医療機器の筐体を設計していた八木啓太氏の“一人メーカー”である。ネット家電の先駆メーカーであるCerevoを創業した岩佐琢磨氏は、パナソニックで商品企画を担当していた。画期的なデザインの電動車いすを開発しているWHILLや、Android端末と連動する押しボタンを2013年に発売予定のピグマルも、創業者は大手メーカー出身だ。WHILLのCEOを務める杉江理氏は日産自動車のデザイナーとして働いた経験を持ち、創業メンバーの出身企業には、ソニー、オリンパス、電通と大企業の名前が並ぶ。ピグマルを創業した伊藤元氏も、大手電機メーカーでデジタル・カメラなどの開発に従事していた。

 一方で、ソフトウエア開発やサービスの提供を行うIT企業からハードウエアの世界に転身した創業者も多い。ワンセグ全番組録画機を販売するガラポンを創業した保田歩氏は、元はヤフーの企画マンだった。研究者向け半完成品を販売する「東京デバイセズ」を運営する岩淵技術商事を創業した岩淵志学氏は、統計・データ解析が専門分野で、NECビッグローブと楽天技術研究所でキャリアを積んだ。遠隔リモコン装置を販売するグラモを創業した後藤功氏は、システム開発企業のテックファームでシステム開発の責任者や子会社の取締役を務めていた。

魅力にあふれた製品群

 これらの創業者は多様な背景を持っているにもかかわらず、共通している点がある。「こういう製品を作りたい」という確固たる思いが原点になっていることだ。大企業を飛び出したのは、そこでは作りたい製品を作ることが難しかったからに他ならない。

『日経エレクトロニクス』2012年11月26日号より一部掲載

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第2部<進む支援環境の整備>
製品開発や資金調達に役立つ
ツールやサービスが登場

ハードウエア起業を支援するさまざまな環境が充実してきた。資金調達では「クラウド・ファンディング」という新しい仕組みが注目を集めている。電子回路や機構部品の開発に役立つツールやサービスも充実しつつある。

進む支援環境の整備

 実際にハードウエア製品を企画・開発し、それを販売する事業で起業するには、主に三つのハードルがある。コンセプトが実現可能であることを示す試作機の開発、製品の開発や生産などに掛かる資金の調達、そして量産可能な製品の開発と製品の製造・出荷である。これら三つのハードルのそれぞれに対して、支援環境が整ってきている。こうした変化を取り上げた書籍もある。

 電子回路の試作によく使われているのが、オープンソース・ハードウエアの「Arduino」だ。入出力の制御機能などがあらかじめ用意されているため、制御したい部品を接続して制御プログラムを書くだけで、実動可能な試作品を実現できる。実際に、第1部で取り上げたBsizeやSassorでは試作機の開発にArduinoを利用していた。  試作機と製品の両方の開発で役立つのが、プリント回路パターンを設計できる無料のCADソフト、インターネットから利用できるプリント基板製造サービスや部品販売サービスだ。

 機構部品を作るための環境も充実してきている。造形物のデータ作成に用いる2Dや3Dに対応したCADソフトは、無料で利用できるものが増えてきた。小型の3DプリンターやCNC(computer numerical control)工作機は、個人でも手が届く低価格のものが登場している。レーザ・カッターなどの工作機械を無料で利用できる「ファブラボ」という施設も徐々に増えてきた。日本ではつくば、鎌倉、渋谷の3カ所にある。インターネットでCADデータを送ることで造形物を出力してくれる各種サービスもある。

『日経エレクトロニクス』2012年11月26日号より一部掲載

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