第1部<インパクト>
世界的な普及期に入る
求められる機能が鮮明に

スマートメーターの導入が世界規模で進んでいる。HEMSとの連携や双方向通信など、求められる機能や技術が、固まってきた。その影響は、家電や自動車など他の機器にまで及ぶ。

スマートメーターは半導体・電子部品の塊
(写真:フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ)

 トーマス・エジソン(Thomas Edison)が実用的な白熱電球を発明したのが1879年。それ以降、世界のあらゆる場所に電力網が張り巡らされてきた。近年では、自動車までも電力網から駆動エネルギーの供給を受けるようになりつつある。この電力網が「100年に1度」の変革期を迎えている。電力事業者側の発電と需要家側の電力消費を両方で制御し、電力網全体の信頼性・効率性を高める取り組みだ。

 その取り組みの中核となる「スマートメーター」の普及が今、世界各地で急速に進んでいる。スマートメーターは電子式の電力/ガス量計で、通信機能を組み込んで検針値を遠隔監視できる。北米や欧州を中心に普及し、スウェーデンやイタリアのようにほぼすべての家庭や企業に導入済みの国もある。

4年後は1億4000万台市場に

 既に日本でも、段階的な導入が始まっている。試験導入を含め、関西電力が約150万台、九州電力は約18万台を設置済み。国内最大の契約者を抱える東京電力も、2014年度から導入を始める。同社は2018年度までに、管内需要家の6割強に相当する約1700万台のスマートメーターを設置する計画だ。日本全体に関しては、政府が2016年までに、電力の総需要の8割をスマートメーターで対応できるようにする方針を打ち出した。全国で稼働している電力メーターの総数は約7800万台。現状、多くは従来型のアナログ方式だが、近い将来、すべてがスマートメーターへと置き換わる。

 スマートメーターの導入を検討しているのは、欧米や日本だけではない。例えばアジアでは、中国や韓国も導入計画を進めている。

『日経エレクトロニクス』2012年11月12日号より一部掲載

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第2部<通信部分の基礎>
相互接続性を考慮して
国際標準方式の採用進む

これまでエネルギー関連設備が使う通信は、独自仕様のものが多かった。しかしスマートメーターは各種機器との接続性を考慮し、国際標準方式を専ら採用する。世界市場で共通的に利用される、通信部分に関する技術の基礎を解説する。

スマートメーターにつながる通信ネットワーク

 かつて、電力やガスのメーターをはじめとするエネルギー系統の関連設備は、構成する部品から扱うデータのフォーマットに至るまで、エネルギー事業者が定める独自仕様に基づいていた。しかし近年では、系統設備の高度化や導入・運用のコストなどを理由に、民生機器などにも使用されるオープンな技術が使われ始めている。その代表ともいえるのが通信の分野だ。特にスマートメーターの通信機能は、世界の各地域においてさまざまなオープン技術が採用される。

メーターにつながるルート

 スマートメーターの通信ルートは、大きく二つある。電力/ガス事業者側でメーターを管理する「メーター・データ管理システム(MDMS)」とつながる通称「Aルート」、企業や家庭内の機器やエネルギー管理システム(EMS)につながる通称「Bルート」がある。家庭内へのEMSの導入によって構築される家庭内ネットワークは、通称「HAN(home area network)」と呼ばれており、スマートメーターはBルートを経由してこのネットワークにもつながる。

『日経エレクトロニクス』2012年11月12日号より一部掲載

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第3部<海外/国内の事情>
米国はメッシュ、欧州は電力線
国内仕様は東電の動きが左右

世界各地で検討が進むスマートメーターだが、地域によって導入状況は異なる。米国はすでにデマンド・レスポンスの実施、欧州では導入の義務化が進んでいる。日本では、最大の事業者である東京電力の導入仕様に注目が集まっている。

各地で導入もしくは検討されている主な通信技術

 世界各地で普及が進むスマートメーターだが、第2部で解説したように、さまざまな通信規格・方式が存在しており、導入または検討されている技術も、地域ごとに異なる。

 例えば、米国ではAルートに近距離無線を用いたマルチホップ伝送が多く採用されており、BルートとHANの通信ミドルウエアはSEPが使用され始めている注1)。ところが欧州の場合、英国やスウェーデンなどを除き、Aルートにマルチホップ伝送は利用されない。というのも欧州は、日本や米国と違い、屋内に電力メーターを設置するのが一般的なためだ。しかもコンクリートや石造りの住宅が多く、近距離無線にとっては過酷な伝搬環境となる。このため、屋内のスマートメーターでも確実に接続できる電力線通信の採用実績が多い。なお、Bルートに関しては、英国以外の国では詳細な議論が進んでいないもようである。

 一方日本は、どの規格・方式を選択するかという議論の真っただ中にある。BルートとHANの通信ミドルウエアにECHONET Liteを使用することは決まったが、その下位層の議論はこれからだ。国内最大の需要家を抱える東京電力のスマートメーターが、今まさに通信仕様を策定中である。仕様の方向性が2012年11月内にも公開され、詳細な提案依頼(RFP:request for proposal)がメーター・メーカーなどに対して実施される予定である。

 このようにスマートメーターに関する動向は国や地域ごとに大きく異なる。米国、欧州、日本それぞれの導入背景と状況を見ていこう。

『日経エレクトロニクス』2012年11月12日号より一部掲載

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