「世界の工場」──。ある経済誌が中国をこう形容したのは、2000年のことでした。その誌面は、テレビや洗濯機、家庭用エアコン、冷蔵庫など多くの分野において中国製品のシェアが世界トップに躍り出て、製品の品質も日本製と遜色ない水準になりつつあることを華々しく伝えていました。
その後、中国は「世界の市場」へと成長しつつあります。急速な経済成長を続けるこの大国には、13億人の潜在的な大市場があります。確かに、GDP(国内総生産)などの指標を1人当たりの実額に換算して他の先進国と比較すると、現時点ではまだ見劣りするのは事実です。しかし、中国の人口は日本の10倍以上であり、先進国の消費者と同様の経済力を持つ上位10%の富裕層をターゲットとするだけで、日本1国を上回る大きな購買力を有しているともいえます(図)。
筆者は、銀行員およびコンサルタントとして、これまで20年以上にわたって日系企業の中国進出をサポートする一方で、その間、多くの日系企業の栄枯盛衰を見てきました。その経験から考えると、2012年の反日騒動を考慮してもなお、日本と中国のビジネス関係は広く深く進化していくことでしょう。
日本人駐在員の変遷を見ると、1980年代までは、その多くが中国語の堪能な商社マンや外務省関係者といった、ごく一部の中国専門家でした。それが1990年代に入ると大手製造業の社員が主流を占めるようになり、2000年以降は大手企業に限らず中堅企業からの駐在員も急増しました。直近では、日本の不況やデフレ、円高、それらに加えて震災という厳しい経営環境に直面し、やむにやまれず日本から中国に工場を移設する中堅・中小企業が増えています。そうした結果、中国に長期在住の日本人は既に13万人を超えました。
今、中国への赴任を突然命じられる日本人社員が増えています。中国へ渡れば、日本人社員はほぼ例外なく管理職に就き、日本にいた時より多くの部下を抱えて重い職責を担うことになります。そうした辞令を受けても慌てないように、今回から3回にわたって、中国在住の日本人コンサルタントの立場から、中国での労務管理について覚えておくべき要諦をご紹介していきます。
〔以下、日経ものづくり2012年11月号に掲載〕
キャストコンサルティング 取締役・上海法人総経理