『特許から考える失敗しない研究開発』は今号で終わります。2012年10月号からは、自社が保有する技術と市場のニーズを結び付けるために不可欠な「技術の棚卸し」について取り上げます。この棚卸しをしっかりと実施することで、効果的に保有技術を生かす道を探れます。

技術力と将来性を見極める

 前回(2012年8月号)までに、事業戦略、研究開発戦略、知財戦略の三位一体の経営(知財経営)における代表的な経営課題である[1]アライアンス/ 企業買収、[2]研究開発、[3]マーケティングに関して、知財面から課題解決を支援する「知財情報戦略」と、具体的な知財情報解析について解説した。最終回となる今回は、技術系のベンチャー企業や中小企業に求められる[4]資金調達という経営課題について、知財情報戦略による解析を紹介する。

少ない特許を適正に評価

 技術ベンチャーにとって資金調達の成否は、存続を左右するほど重要な経営課題である。自社技術を知財面から分析してその優位性・将来性を評価することは、出資を要請する上で有効な手段だ。一方、大手や中堅のメーカーなどにとっても、技術ベンチャーに出資して共同事業会社を設立するといったスキームがあり得ることから、技術ベンチャーの特許ポジションを適切に目利きすることが重要となる。

 しかし、技術ベンチャーの保有特許件数は、競合する大企業に比べて圧倒的に少ない。そのため膨大な数の大企業の特許に埋もれて評価を見誤ってしまいかねない。そこで、前回述べたように、特殊な検索式によって母集団を規定して分析対象を絞り込む知財情報戦略の分析方法が意味を持つ。

〔以下、日経ものづくり2012年9月号に掲載〕

山内 明(やまうち・あきら)
三井物産戦略研究所 弁理士
1995年にセイコー電子工業(現セイコーインスツル)に入社。磁気軸受式ターボ分子ポンプの開発などに従事し、優秀発明賞などを受賞する。酒井国際特許事務所での勤務を経て、2003年に物産IPに入社し、知財室長としてナノテク分野の知財戦略策定や実行に従事。2006年より現職。三井物産グループ向け知財コンサルティング部門を統括し、広範な支援サービスを展開する。