ステップアップは、技術者や管理者が基礎力を養ったり新たな視点を導入したりするのに役立つコラムです。2012年9月号までは、ユーザーニーズをつかむ手法の1つである行動観察の活用法を解説する「富士ゼロックスが活用法を指南 行動観察を始めようII」をお届けします。

 前回(2012年7月号)は、行動観察が設計という行為とどのように結びつくかについて説明しました。行動観察は、人の視点を起点とした設計「Human-Centered Design」(HCD:人間中心設計)と密接に関わっています。HCDのISO規格「ISO9241-210」で示されているプロセスは、大きく6つに分かれます。[1]HCDプロセスの立案、[2]利用状況(Contextof Use)の理解、[3]ユーザー要求の明示、[4]ユーザー要求に応える設計案の創出、[5]要求に対する設計案の評価、[6]要求を満たした設計ソリューション、の6つです。行動観察は、このうち[2]の利用状況の理解で活用すると、強力な手段となり得ることを説明しました。

 さて、今回は、こうしたISOプロセスのうち[2]~[6]の部分に、実践者の視点から焦点を当てます。[2]~[6]の部分とは、行動観察を実施してから、その結果を設計案に落とし込むまでの過程です。この一連の流れを押さえておけば、行動観察を実践する私たち技術者が、具体的にどのように観察結果を商品やサービスの具現化に結び付けているかをイメージしていただけると思います。

いったん抽象世界へ進む

 その一連の流れを図に示しました。これは、ISOプロセスの[2]~[6]と基本的には同じ。しかし、ISOのプロセス図には表現されていないけれど、この図には表現されている、実践者が常に意識すべき重要な観点があります。何だか分かりますか?

〔以下、日経ものづくり2012年8月号に掲載〕

図●行動観察の結果を商品やサービスに落とし込むまでのプロセス
図●行動観察の結果を商品やサービスに落とし込むまでのプロセス
横軸は、プロセスの進捗度合、縦軸は、そのステップが具体的か抽象的かの質的側面を表す。プロセスの中盤でいったん抽象的な世界へと進む。必要に応じてプロセスの前段階に戻り、具体的な世界と抽象的な世界を何度も行き来しながら本質に迫ることが大切だ。

蓮池公威(はすいけ・きみたけ)
富士ゼロックス 商品開発本部
1994年、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科造形工学専攻を修了。富士ゼロックスでは、商品開発本部ヒューマンインターフェイスデザイン開発部でユーザー・インタフェースのデザイン、ワークプレイス研究、Human-Centered Design手法の研究と実践などに取り組む。2008年からは社内技術講座で観察とインタビューの講師も担当。人間中心設計機構の評議員、武蔵野美術大学基礎デザイン学科の非常勤講師。