「実践 日野式設計手順書」では、日野三十四氏が提唱したモジュラーデザイン(MD)を実現する上で最大のカギとなる設計手順書について、その作り方や運用方法を指南します。メカ/エレキ/ソフトから成る複雑なシステムを論理的に設計するための方法を学べます。

在るべき姿は「コモン・プラットフォーム」

 今回は、エレキシステムの設計手順書の作成について解説する。ここでのエレキシステムとは電気製品そのものではなく、製品の中の電気・電子回路を指す。自動車であればエンジン・コントロール・ユニット(ECU)、家電製品や産業用装置であれば操作・表示部の裏に装着されている電気・電子回路である。

 エレキシステムは、メカシステムとソフトウエア・システムを仲介する役割を担っている。エレキを構成するマイコンやICチップに組み込みソフトが入り、そのエレキをメカに取り込んだものが製品になるという関係である。

 近年は、メカ・エレキ・ソフト融合製品が非常に増えてきた。それぞれの設計者は別人であることが多いので、メカ-エレキ-ソフト間におけるインタフェースの整合取りに多くの時間を要するようになり、製品開発期間の短縮や品質保証を行う上での障害になりつつある。そこで、メカとソフトを仲介するエレキの設計を標準化できれば、ソフトもエレキの標準に合わせて考えればよくなるので、そうした問題の改善につながる。

 エレキの設計フローは、以下に示すように、「プラットフォームの標準化」から始まり「電気・電子部品のモジュール化」で終わる。この順番は、詳細のフローも含めて製品を問わず基本的に同じである。

 設計の手順を明文化することは、すなわち設計を標準化・モジュール化することである。従って、標準化・モジュール化のフローに製品固有の仕様名と仕様値を盛り込んだものが、製品別の設計手順書になる。メカの設計フローは製品ごとに異なるのに対し、エレキの設計フローは共通である。

〔以下、日経ものづくり2012年7月号に掲載〕

日野三十四(ひの・さとし)
モノづくり経営研究所イマジン 代表
1968年東北大学工学部卒業、マツダに入社し、エンジンの研究に従事。1988年に技術管理部門に転籍し、技術の標準化や開発プロセスのシステム化などを推進した。2000年にコンサルタントとして独立。2008年に「モノづくり経営研究所イマジン」を開設。2011年に「日本モジュラーデザイン研究会」を創設し、会長に就任。著書に『トヨタ経営システムの研究』(ダイヤモンド社)、『実践 モジュラーデザイン 改訂版』(日経BP社)など。