2012年4~9月号で連載する「デジタルセル生産のススメ」では、作業者1人で1製品の組立作業を完結させる「1人完結セル生産」と、その作業をセンサやITの活用で支援することが、いかに生産現場の作業者のやる気(モチベーション)を高め、ひいては顧客に喜ばれる製品づくりにつながるかを解説します。

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 「1人完結セル生産」を実現するためには、「記憶力」という人間の弱みを補うことが不可欠だ。そのカギとなる「デジタルマニュアル」(図)について今回は話を進めよう。

試作品の前にマニュアル作成

 前回(2012 年5月号)の最後に記したように、ローランド ディー.ジー.(以下、ローランドDG)在籍中に筆者は紙で印刷していた組立マニュアルをデジタルデータ化し、ディスプレイなどに表示するデジタルマニュアルの活用を考えた。そのアイデアを当時の開発担当の取締役に話すと、1つの条件を課せられた。それは、「デジタルカメラの使用禁止」である。

 当時、マニュアルは製品設計がほぼ完了してから作る最終段階の試作品をベースに作成していた。時間があれば、分かりやすいテクニカルイラストを新規に描き、それをマニュアルに貼り付けたい。しかし、製品設計が完了してからマニュアルが必要になるまでに許される時間は短い。作成期間を短縮するためにデジタルカメラで試作品を撮影し、その画像を表計算ソフトのファイルに貼り付けるといった方法となってしまっていた。

 紙マニュアルの用紙はA3判で、それを横向きに使う。左半分に作業内容や使用部品、注意ポイントを文字(テキスト)で書き、右半分に画像を貼り付けるという形式だ。しかも、カラー印刷はコストが高いので、どうしてもモノクロ印刷になる。このため、以前のマニュアル上のデジタルカメラ画像は、決して見やすいとはいえなかった。

 単に「画像を見やすいものにする」ということを意図したのであれば、カラーで紙に印刷したり、ディスプレイに表示したりすれば済む。後者はまさに、デジタルマニュアルとすることで実現できる解決策だ。

〔以下、日経ものづくり2012年6月号に掲載〕

図●デジタルマニュアルの例
図●デジタルマニュアルの例
3次元CADデータを活用して部品形状や組み立て手順などを表現する。作業の進み具合に連動して画面を切り替える仕組みや、文字情報を極力減らした画面づくりがポイントだ。

関 伸一(せき・しんいち)
関ものづくり研究所 代表
1981年芝浦工業大学工学部機械工学科卒。テイ・エス テックを経て1992年ローランド ディー.ジー.に入社し、品質改善を切り口とした生産改革に注力。2000年に完成させた、ITを取り入れて効率化した1人完結セル生産である「デジタル屋台生産」が日本の製造業で注目される。2008年からはミスミグループの駿河精機本社工場長、生産改革室長として生産現場の改革に従事。2010年3月に「関ものづくり研究所」を設立。