東日本大震災を教訓に、自転車業界が新コンセプトの自転車開発に乗り出した。自転車産業振興協会は、企業の開発案件に助成金を付与する同協会の制度「平成23年度(2011年4月~2012年3月)新商品・新技術研究開発」のテーマの1つに「災害対策」を採用。これに自転車メーカー2社と自転車販売チェーン1社が手を挙げ、このほど3社の試作車が出そろった。ここでいう災害対策とは、これから起こり得る災害を防いだり、被害を最小限に食い止めたりするのではなく、災害が発生した後に被災者の生活を助ける「被災者支援」という位置付けである。

 手を挙げたのは、ブリヂストンサイクル(BS、本社埼玉県上尾市)、ミヤタサイクル(本社東京)、都心を中心に自転車販売チェーンを展開するサイクルスポット(本社東京)の3社。試作車を比べると、その外観は3社3様だ。しかし、どれも従来の自転車業界の常識にとらわれない発想を取り入れている点で共通している。

貴重な体験から学ぶ

 例えば、BSの試作車には、自転車を自立させるための両足スタンドが2つ付いている。当然のことながら通常は2つも必要ないが、BSの技術者はあえて2つにこだわった。他の2社も、フレームを2股に分割する奇抜な構造を採用したり(サイクルスポット)、自転車ではなく軽車両扱いになる牽引車をあえて開発したり(ミヤタサイクル)と、業界の常識から外れた発想を恐れず採用している。

 3社がそろいもそろって常識外の発想を取り入れた理由は明快だ。それがユーザーのニーズを満たすと考えたからである。

〔以下、日経ものづくり2012年6月号に掲載〕