第1部<総論>
道誤れば“監視社会”
安全と自由の両立を目指す

各種センサによって「現実世界のデータ化」が進むことで、新しいサービス産業が生まれる。しかし、センサ・データの扱い方を間違うとプライバシー問題に発展する危険性がある。データをオープンに使えるようにしながら、利用者のプライバシーを守る仕組みが必要だ。

現実世界の転写が進む

 現実世界がインターネット上に転写される──。今、現実世界の動きをデータ化し、インターネットのサーバーに収集する動きが加速している。その立役者はスマートフォン。利用者とともに移動し、GPSやマイク、カメラ、NFCなど多様なセンサを内蔵するという特徴があるためだ。センサが収集する利用者の行動に関するデータなどを、通信機能を使ってサーバーに送信する。

 今後は、家電のスマート化の流れに乗って、テレビやカーナビなどの情報機器だけでなく、体温計や血圧計などの健康器具、冷蔵庫や洗濯機、エアコンといった身の回りにあるさまざまな家電機器がネットワークにつながる。こうした機器が吐き出す「生活ログ」をサーバーに集めることができれば、屋内外を問わず、人の動きをより鮮明にインターネット・サービス側で判断できるようになる。

 インターネット上への大量なセンサ・データの流入は、インターネット・サービスの競争環境を一気に変える可能性を秘めている。

 現在、インターネット・サービスはWebページの検索やSNSといった文字ベースのものが主流だ。文字以外のセンサ・データを活用するビジネスは、まだ手探り状態だが、データの量の豊富さや多様さは文字データと比較にならない。このため、大きなビジネスチャンスを秘めている。

家電メーカーにチャンス到来

 実は、家電メーカーはこの競争を有利に進められる立場にある。センサ・データを自社のサーバーに集める仕組みをあらかじめ機器に組み込んでユーザーに提供できるからだ。

『日経エレクトロニクス』2012年5月28日号より一部掲載

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第2部<社会的コンセンサス>
どこまでなら大丈夫か
ユーザーの納得感がカギ

個人に関する情報の取り扱いについて、国内には今のところ明確な基準は存在しない。サービス事業者による情報の利用が活発化するなか、ユーザーが拒否反応を示す例も増えている。どうやら、そこには法律や技術だけでは解決できない、ユーザーの気持ちの問題が存在しそうだ。

データの活用にはユーザーのコンセンサスが必須

 2011年後半から、個人に関する情報の取り扱いが原因で、“炎上”するインターネット・サービスが相次いでいる。中でも、“彼氏”の位置情報をスマートフォンに搭載されたGPSなどのデータを使って“彼女”に通知するサービス「カレログ」は、世間を大いににぎわせた。

 彼氏のスマートフォンにアプリケーション・ソフトウエア(以下、アプリ)を秘密裏にインストールしておくと、本人に気付かれることなく、彼女がパソコン上で位置情報などを確認できる。自分の居場所が無断で他人に知られてしまうという恐怖感に駆り立てられ、カレログの悪評は瞬く間に広がっていった。そして最終的には、総務大臣の川端達夫氏が「サービス当事者の改善を見守り中」とコメントする事態となった。

 これまでも、位置情報を含む個人に関する情報の取り扱いについては、専門家を中心に議論されてきた。しかし、世間がそれほど関心を持つことはなかった。それが、カレログという具体的な事例が提示されたことで、よりユーザーに身近な問題として認識されたのである。

 しかし、個人に関する情報を、事業者がどのように取り扱うべきかについては、明確な基準が存在しないのが現状である。何がよくて、何がダメなのか──。今後は事例を積み重ねながら、「基準をユーザーと一緒に作っていく」(サービス事業者)作業が始まる。キーワードは、ユーザーの“納得感”、つまりコンセンサス(合意)を得ることである。

『日経エレクトロニクス』2012年5月28日号より一部掲載

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第3部<技術>
あなたのセンサ・データを
秘匿化と流通制御で守る

センサ・データを使ったサービスでは、柔軟なデータ活用とプライバシー保護が必要だ。運用の成功には、データの秘匿化と流通制御の技術が不可欠になる。ただし、現在は保護基準がないため、ほとんどの技術が提案レベルにとどまっている。

プライバシー保護に寄与する二つの技術

 プライバシーを侵害しないようにしながら、さまざまな端末から取得したセンサ・データをサービスに活用する──。センサ・データを提供する端末ユーザーのコンセンサスを得ながらこれを実現するためには、以下の二つの技術の下支えが必要になる。

 一つがデータの「秘匿化技術」。集めたデータを加工して第三者に渡す場合や、誤って外部に漏洩させてしまった場合に、そこから個人が特定できないようにする技術である。

 もう一つが、「データ流通制御技術」。データがどのようにネットワーク上を流れたかを捕捉するとともに、データ提供者と約束した以外の処理ができないように制御する技術である。

 現在、これらの技術は開発途上のものが多く、利用に際しての業界の基準がない。そのため、いずれも研究レベルにとどまっている。さらに、技術的に適用できるケースが限られたり、計算コストがかかったりするなど、一長一短があるのが実情である。

『日経エレクトロニクス』2012年5月28日号より一部掲載

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