実用化は1995年からと歴史は浅いが、静かなクルマを実現するのに多用されているのが住友スリーエムの高機能中綿素材。非常に細い2種類の繊維を不織布とすることで、軽量ながら高い吸音・断熱性能を実現する。最近では特にハイブリッド車(HEV)での静粛性向上に大きく貢献している。

 自動車の快適性で重要な要素となるのが、NVH(騒音、振動、ハーシュネス)だ。一般にロードノイズや風切り音が騒音の、エンジンなど重量物が振動の、路面からの突き上げなどがハーシュネスの要因になると言われている。
 騒音に関しては、キャビン内に音が入り込まないように遮音するのが一般的。しかし、その上で音を小さくしたい場合は、吸音材を貼り付けることで対策している。主な吸音材にはフェルト、発泡ウレタン、グラスウールなどがある。質量や繊維の太さなどによって得意とする周波帯があるため、用途によって使い分けられてきた。
 吸音のメカニズムは、音が繊維を迂回することで通気抵抗が生まれることと、繊維同士がこすれることで摩擦熱としてエネルギが消費されることによる。このため、同じ質量でも表面積が大きいほうが吸音効果は高くなる。
 フェルトやグラスウールに比べて、繊維が細く、同じ吸音効果を得る場合軽くできることで採用が増えているのが住友スリーエムの高機能中綿素材「シンサレート」(図)。元々、1980年代に衣服の断熱材として開発されたが、吸音効果が認められ、1995年に自動車用の吸音材として実用化された。

以下、『日経Automotive Technology』2012年7月号に掲載
図 フェルトと高機能中綿素材の比較
図 フェルトと高機能中綿素材の比較
(a)左がフェルト、右が高機能中綿素材。(b)高機能中綿素材は直径5μmのPP(ポリプロピレン)と20~30μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)を一体化した不織布で「シンサレート」という商標で呼ばれる。