リコーは、2012年度に発売する複合機から電炉鋼板を構造部品に本格的に採用する。東京製鉄と共同開発したもので、家電などに広く普及しているクロメートフリーのタイプだ。電磁波シールド性、耐食性などの性能は高炉鋼板と比べても遜色がない上、絞りなどの加工性も大幅に改善し、実用化に結び付けた。

 リコーと東京製鉄は2012年3月27日、共同で複合機向け電炉鋼板を開発したことを明らかにした(図)。複合機向けということは、当然ながら薄板だ。薄板は高級鋼板の代表で、日本の“鉄鋼メーカー”が世界をリードする分野でもある。鉄鋼メーカーが技術の粋を集めて高強度や優れた加工性、寸法精度といった、さまざまな性能・機能を実現して、自動車や家電、複合機などのOA機器に大量に使われている。

 ただし、ここでいう鉄鋼メーカーとは、新日本製鉄やJFEスチールなどの高炉メーカーのことである。つまり、薄板は高炉鋼板の独壇場だった。電炉鋼板はこれまで軽自動車のセンターピラーの内板や白物家電などに一部採用されたことがあり、これをもって、「高炉メーカーの牙城を崩す電炉鋼板」と大きく報道されたこともあったが、量的に見るとわずかなものだった。
〔以下、日経ものづくり2012年5月号に掲載〕

図●絞り加工が最後の難関
複合機向け鋼板には、プレス加工時の高い寸法精度や絞り加工性などが求められる。写真の部品は、開発初期段階の電炉鋼板を使って試作したもの。この部品には複合機の構造部品に必要な[1]~[4]の加工ニーズが1つの形状の中に盛り込まれているため、標準サンプルとして利用した。この段階では、[3]と[4]の課題はクリアできたが、[1]のスプリングバックへの対応と、[2]の絞り加工性が不足していた。このうち、絞り加工性を高めることが実用化に向けた最大のハードルとなった。
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