「実習 FTAの使い方」は、信頼性解析技法の1つであるFTA(Fault Tree Analysis、故障の木解析)について、不具合の原因となる部品と現象の因果関係の推定の仕方や、安全対策の検討の仕方などについて学んでもらうコラムです。次回からは設計手順書の作り方についてお届けします。

事故要因の連鎖を安全機能で遮断する

 これまで、エアコン室外機や自転車用幼児座席、ハロゲンヒータ、ガスこんろといった製品を例に、FT図を使って事故や不具合の発生を未然に防止するための安全対策について考えてきた。最終回となる今回は、社会的に大きな問題となった重大事故を例に、FTAを活用しながら未然防止のための安全対策について検証してみたい。

 具体的には、大量リコールとなったトヨタ自動車のアクセルの不具合と、東京都港区のエレベータで高校生が挟まれて死亡した事故、そして六本木ヒルズでの大型自動回転ドアによる挟まれ死亡事故の3つを取り上げる。まず、トヨタ自動車のアクセルの不具合から見ていこう。

加速が続くアクセルの不具合

 トヨタ自動車の一部の車種で問題になったアクセルの不具合は主に、フロアマットがアクセルペダルに引っ掛かったために足を離しても同ペダルが戻らなくなったり、アクセルペダル自身が戻りにくくなったりしたことで発生した。

 図は、第2回(2011年11月号)で紹介した「重大事故の標準的なFT図」だ。この図をベースに、このアクセルの不具合による事故のFT図を作成してみよう。同図に示した「停止機能」や「防止機能」「回避(避難、停止)」となっている部分が、「安全機能」となる。

 実際、自動車がドライバーの意図しない加速によって衝突し、死亡事故に至ったケースをFT図に表してみた。ドライバーが加速の程度を制御できないという「異常状態」が発生すると、「急加速」さらには「超高速走行」へとつながる。一方、その車が人や他の車と「急接近」すれば「人や物に接近」し、「衝突」する。これら「超高速走行」と「衝突」が同時に発生すると「高速で衝突」し、「死亡事故」へと至ることが、この図から分かる。

 このような因果関係の中で、同種の事故を未然に防止するためには、どのような安全機能を付与しておけばよいのだろうか。一緒に考えていこう。

〔以下、日経ものづくり2012年3月号に掲載〕

図●重大事故防止のためのFT図
重大な危害の発生を未然防止するためには、そこへ至る因果関係の各所に「停止する」「防止する」といった安全機能を設けることが重要となる。これらの安全機能のどれか1つが働く、つまり、全ての安全機能が働かないという状態に陥らない限り、重大事故は発生しない。
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松本浩二(まつもと・こうじ)
日本科学技術連盟 R-Map実践研究会 総括主査
PSコンサルタント〔製品評価技術基盤機構(NITE)技術顧問〕。医療機器メーカーで製品安全に携わると共に、1990年より日本科学技術連盟(日科技連)にて異業種企業と製品安全およびリスクアセスメント手法を研究し、国際規格をベースに独自のR-Map手法を共同開発した。2012年7月に経済産業省が発行した「リスクアセスメントハンドブック《実務編》」においては、同検討委員会委員長を務めた。