スポーツカーが売れない時代と言われる中、トヨタが富士重工業と開発したスポーツカーが「86」である。手頃な価格帯ながら、部品の多くを新設計してコストを掛けた。儲からないクルマだが、トヨタはある重要な役割を86に託す。新興国にトヨタブランドを浸透させる旗振り役だ。

 トヨタ自動車と富士重工業が共同で開発したFR(前部エンジン・後輪駆動)スポーツカーの「86(ハチロク)」と「スバルBRZ」。ほぼ同じ仕様の二つの車両のうち、86を発売するトヨタは今回、異例の戦略を採った。試作段階の車両をアフターパーツメーカーに販売し、発売前にも関わらず図面を提供したことだ。車両の情報が事前に漏れてしまうが、車両の発売と同時に各社がアフターパーツを販売するので、86への注目度を高められる。
 二つの車両の発売時期は2012年春とまだ先。それでも同年1月の「東京オートサロン2012」でエッチ・ケー・エス(HKS)やテインなどの大手アフターパーツメーカーは、トヨタの事前情報を基に86とBRZのサスペンションやマフラーなどを出展した(図)。HKSは試作段階の86を購入し、ドリフトさせやすい改造車まで披露した。
 トヨタがこうした大胆な戦略を実行してまで86に力を注ぐのは、同社にとって“世界戦略車”と言えるほどに重要な位置付けの車両だからだ。社長の直下に86のマーケティング部門を置く特別な体制を敷き、100以上もの国や地域で販売する計画である。

以下、『日経Automotive Technology』2012年3月号に掲載
図 発売前なのにアフターパーツや改造車
(a)テインのばねとダンパ。(b)HKSの改造車。86がベース。