「実習 FTAの使い方」は、信頼性解析技法の1つであるFTA(Fault TreeAnalysis、故障の木解析)について、不具合の原因となる部品と現象の因果関係の推定の仕方や、安全対策の検討の仕方などについて、具体的な製品を例示しながら実習形式で学んでもらうコラムです。

できる限りの安全対策を講じたか

 2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故は、いまだ収束の見通しが立っていないと筆者は考えている。同年12月の政府による収束宣言は表面的かつ局所的なものにすぎず、国民を安心させられる状況とはなっていないからだ。この根底には、原子力発電所の安全性、つまりリスクに対する評価/認識の甘さや未然防止策の不十分さがある。「安全第一」という標語の意味を、今一度考えてみる必要があるだろう。

 原子力発電所と一概には同列に語れないが、我々の身近にも大きなリスクを持つ製品は多い。思いもよらないほど大きな被害の事故が発生したり、事故が多発したりしてから安全対策を考えるのでは遅い。

 そこで今回は、身近にあって大きなリスクを持つ製品の代表例であるガスこんろを取り上げ、現在の技術水準を考慮した上での不具合の未然防止策について、FTAを活用して考察していく。

〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕

松本浩二(まつもと・こうじ)
日本科学技術連盟 R-Map実践研究会 総括主査
PSコンサルタント〔製品評価技術基盤機構(NITE)技術顧問〕。医療機器メーカーで製品安全に携わると共に、1990年より日本科学技術連盟(日科技連)にて異業種企業と製品安全およびリスクアセスメント手法を研究し、国際規格をベースに独自のR-Map手法を共同開発した。2012年7月に経済産業省が発行した「リスクアセスメントハンドブック《実務編》」においては、同検討委員会委員長を務めた。