人を動かす大きな力
今回は、なぜエアバッグの開発が成功したかについて考えてみたい。そこにイノベーションを成功に導くカギがあると思うからだ。
まず、筆者が絶対に諦めなかったことである。みなさんには月並みなことに聞こえるかもしれないが、諦めないためにはくじけない心を持つことが必要であり、それはなかなかできることではない。
特にエアバッグの開発は、1987年の量産開始まで16年間もかかった。長い年月である。これを逆からみれば15年間は成果がなかったということだ。この間、「絶対に実用化してやる」という強い心を持ち続けることは簡単ではなかった。何しろ、危機が次から次へと降り掛かってくるのだから。
これまでも、幾つかの危機を紹介してきた。米国での実車搭載試験の実施について、米American Honda Motor社のトップの雨宮高一さん(後のホンダ副社長)を説得したこと(2011年9月号)や、主要部品のメーカーがエアバッグの開発から手を引くと宣告してきたこと(2012年1月号)、などだ。しかし、こうした危機は、開発や量産に向けての節目だけではなく、ことあるごとに起こった。中には思い付きとしか考えられないような開発中止の指示もあった。
〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授