2012年3月号までは、既存のコラム「ホンダ イノベーション魂!」を引き続きお届けします。ホンダ イノベーション魂!は、日本初のエアバッグの開発に成功した技術者が、独創的な技術開発で成功するために研究開発者は何をすべきかを解き明かしていく実践講座です。

人を動かす大きな力

 今回は、なぜエアバッグの開発が成功したかについて考えてみたい。そこにイノベーションを成功に導くカギがあると思うからだ。

 まず、筆者が絶対に諦めなかったことである。みなさんには月並みなことに聞こえるかもしれないが、諦めないためにはくじけない心を持つことが必要であり、それはなかなかできることではない。

 特にエアバッグの開発は、1987年の量産開始まで16年間もかかった。長い年月である。これを逆からみれば15年間は成果がなかったということだ。この間、「絶対に実用化してやる」という強い心を持ち続けることは簡単ではなかった。何しろ、危機が次から次へと降り掛かってくるのだから。

 これまでも、幾つかの危機を紹介してきた。米国での実車搭載試験の実施について、米American Honda Motor社のトップの雨宮高一さん(後のホンダ副社長)を説得したこと(2011年9月号)や、主要部品のメーカーがエアバッグの開発から手を引くと宣告してきたこと(2012年1月号)、などだ。しかし、こうした危機は、開発や量産に向けての節目だけではなく、ことあるごとに起こった。中には思い付きとしか考えられないような開発中止の指示もあった。

〔以下、日経ものづくり2012年2月号に掲載〕

小林三郎(こばやし・さぶろう)
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授
1945年東京都生まれ。1968年早稲田大学理工学部卒業。1970年米University of California,Berkeley校工学部修士課程修了。1971年に本田技術研究所に入社。16年間に及ぶ研究の成果として、1987年に日本初のSRSエアバッグの開発・量産・市販に成功。2000年にはホンダの経営企画部長に就任。2005年12月に退職後、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授を経て、2010年4月から現職。