「エアバッグはマムシぐらい大嫌いだ」
開発した技術は、お客様に届けて初めて価値を発揮できる。だから、技術を完成させただけでは道はまだ半ばだ。エアバッグの場合は、事故の際、どれだけ多くの乗員を助けられるかによって価値が決まる。つまり、救命性の高いエアバッグを開発するだけではなく、それを大規模に量産して広く普及させなければならない。
そのためには低コスト化が必須だ。しかし、エアバッグのような特殊な装置、すなわち、故障率1ppm以下という装置に初めて挑戦するようなプロジェクトでは、まず開発段階でつくり込んだ故障率1ppm以下を、量産品として確実に実現することが最重要となる。低コスト化は品質を確保した後に取り組めばいい。この順番を決して間違えてはいけない。
量産段階になると、研究開発部門だけではなく、造ってくれる工場、部品を供給してくれるサプライヤー、そしてエアバッグ搭載車を売ってくれる営業部門との連携が必要になり、関わる人が一気に増える。
この際には、技術を丁寧に説明することが当然ながら必要だが、加えて相手の立場に配慮した気遣いや気配りが欠かせなくなる。今回と次回は、新技術の量産をテーマとしたい。今回は工場、次回はサプライヤーとの連携について紹介する。その前提として、量産化前後の状況の説明から始めたい。
故障率1ppm以下は、工場にとっても初めての経験になる。つまり、究極の製造品質を実現しなければならない。当然ながら簡単なことではないのだ。
〔以下、日経ものづくり2011年12月号に掲載〕
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授