2010年10月29日の夜23時過ぎ、西日本旅客鉄道(JR西日本)の芸備線を走る普通列車が停車のためにブレーキを掛けたところ、走行中にもかかわらず先頭車両のドアの1つが開いた。全てのドアが閉まっていることを示す表示灯(戸閉め表示灯)が消えたのに気付いた運転士が、すぐに列車を止めて事なきを得たが…。

 ドアが開いたのは広島駅を出発した2両編成の上り列車の先頭車両で、2つ目の戸坂駅で停車するために減速した直後のことだった。問題のドアは、車両に4カ所あるうち、進行方向に向かって左前側にあるもの。このドアの、車内から見て右側の扉(右扉)が、5cmほど開いた状態になっていた〔図(a)〕。運転士がその場でドアの状況を確認したところ、正常な位置にあった左扉は手で押しても動かなかったが、右扉は圧力がかかっていないようで手で押すと動く状態だった。

 当時、列車には乗務員を含めて約130人が乗っていたものの、幸い転落やけがなどの人的被害はなかった。しかし、ドア付近にいた乗客が転落する可能性もあったことから、運輸安全委員会が重大インシデントとして原因の調査に当たった。

〔以下,日経ものづくり2011年12月号に掲載〕

図●開いたドアの位置と開閉機構
ブレーキをかけて減速した際に、進行方向に向かって左前側のドアの右扉が5cmほど開いた(a)。扉は戸つり金具によってレールからつり下げてあり、戸つり金具(戸尻側)に接続したピストン棒を圧縮空気で駆動して開閉する(b)。