2011年10~12月号でお届けする「これだけは押さえたい 金型の実務」では、最終製品の付加価値を左右する金型について、現状の設計・製作プロセスに潜む課題を指摘しつつ、金型の使い手と造り手の双方が互いに高め合っていける実務の在り方を提言します。

金型のQCDは製品設計段階で決まる

 日本の金型産業はこれまで技術開発を積み重ねることによって、高性能・低コスト・短納期という顧客(金型の使い手)からの要求を満たしてきた。具体的には、コンカレント・エンジニアリング活動、CAD/CAM/CAEによる型設計、高性能加工機を活用した高速直彫り加工技術・高精度放電加工技術などを、顧客と金型メーカーが一体となって開発してきた。これらの技術開発が、金型メーカーの競争力の源となってきたのだ。

 このように顧客からの要求を満たすことは可能になったものの、金型製作において加工機を含めた装置への依存が高まった上、業界全体での分業化が進んだ結果、技術者が特定の分野しか理解できないといった問題が生じている。さらに、顧客の海外展開に伴い海外拠点での金型や部品の調達が一般化しており、日本の金型産業は国際的な価格競争に巻き込まれているのが現状である。

 日本の多くの金型メーカーは、たとえ顧客の指定した仕様が不完全であっても顧客からの要求・要望を十二分に理解し、要求・要望通りの金型を造り上げるエンジニアリング力を備えている。しかし、近年の理不尽とも言える過度なコスト削減の要求は、金型メーカーの競争力を奪いかねない。

 そこで本連載では、現在の金型設計・製作のやり方を仕様打ち合わせの段階から見直し、金型の使い手と金型メーカーが共生できる実務の在り方を述べる。さらに、日本の製造業が躍進するのに不可欠な付加価値の高い“金型造り”を実現するための取り組みを指南する。第1回の本稿では、現在の金型設計・製作の流れを紹介した上で課題を解決するための視点を指摘していく。

〔以下、日経ものづくり2011年10月号に掲載〕

鈴木 裕(すずき・ひろし)
九州工業大学 先端金型センター長
1977年北海道大学大学院博士前期課程修了、1981年同大学から工学博士号取得。1987年九州工業大学工学部機械工学科助教授に就任。1996年10月同大学教授に昇格。現在は同大学情報工学部機械情報工学科教授。2005年3月から同大学先端金型センター長を兼任している。この間、金型用3次元CAMシステムの開発、CAM内蔵型CNCの開発、ヘール加工システムの開発、金型設計支援システムの開発などに取り組む。